ベクトルネットワークアナライザ(VNA)入門ガイド

高周波やマイクロ波領域で使用されるベクトルネットワークアナライザ(VNA:Vector Network Analyzer)は、アンテナやフィルタ、アンプ、ミキサーなどの性能評価に欠かせない計測器です。本記事では、VNAの基本原理から測定対象、活用例、選定ポイントまでを初心者にもわかりやすく解説します。

 

VNAとは?

VNAは、被測定デバイス(DUT)に高周波信号を入力し、反射波(S11)や透過波(S21)の振幅と位相を同時に測定できる装置です。これにより、インピーダンス整合、損失、利得などを周波数ごとに可視化できます。

従来のスカラーネットワークアナライザ(SNA)が振幅のみを測定するのに対し、VNAは**ベクトル量(振幅+位相)**を扱うため、より高精度な特性評価が可能です。

 

測定可能なSパラメータ

パラメータ 内容
S11 入力端の反射係数(リターンロス)
S21 入力から出力への透過係数(利得・挿入損失)
S12 出力から入力への逆方向伝送
S22 出力端の反射係数

※2ポートVNAではS11、S21、S12、S22を測定。4ポート以上では、より多くのSパラメータに対応可能です。

 

測定対象と主な用途

  • アンテナ:VSWR、リターンロスなどの反射特性

  • フィルタ:通過帯域と遮断帯域の伝送特性

  • アンプ:利得、入力・出力整合、安定性の評価

  • ミキサー:アイソレーション、コンバージョンロス

  • ケーブル・コネクタ:伝送損失や反射の確認

 

基本的な測定手順

  1. キャリブレーション(校正)

    • Open/Short/Load/Throughの4ステップで事前校正を行い、システム誤差を補正。

  2. 測定条件の設定

    • スイープ周波数、測定ポイント数、測定対象パラメータ(例:S11、S21)を選択。

  3. DUT(被測定物)の接続

    • SMAケーブルで接続し、インピーダンス整合を確認。

  4. 測定と解析

    • リターンロス、挿入損失、スミスチャート、VSWRなどの表示結果を確認。

 

VNAの選定ポイント

1. 周波数レンジ

使用目的に応じた十分なカバー範囲(例:DC〜4.5GHzなど)を持つことが重要です。

2. ポート数

標準的な用途では2ポートで十分ですが、複雑な回路評価には4ポート以上が求められます。

3. ダイナミックレンジ

高いアイソレーションや遮断特性を測定する場合、100dB以上の広いダイナミックレンジが必要です。

4. 校正機能

自動校正機能やUSB校正キット対応は、手間の削減と再現性向上に貢献します。

5. 表示・解析機能

スミスチャート表示、群遅延、VSWR、dBスケールなどの多機能な解析ツールが搭載されていることを確認しましょう。

 

精度を保つための運用上の注意

  • 測定前の校正は必須

  • ケーブルやコネクタの摩耗・汚れは誤差の原因に

  • 高周波コネクタはトルクレンチで規定トルク締結を徹底

  • 温度変化や電源ノイズにも配慮

 

まとめ:VNAを使いこなすために

ベクトルネットワークアナライザは、高周波デバイスの評価や設計において強力なツールです。正しい使い方と日常的な校正、適切な選定により、測定精度と作業効率を高めることができます。

T&Mコーポレーションでは、SIGLENTなどの信頼性あるVNA製品を取り扱っており、用途に応じたご提案が可能です。デモ機の貸出や技術サポートも行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。