1. オシロスコープの接地の基本
■ 一般的なオシロスコープの接地
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多くのベンチトップ型オシロスコープは電源の3極プラグを通じて筐体が接地されています(保護接地、PE: Protective Earth)。
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BNC端子のシールド(外側)は筐体と導通しており、プローブのグランドクリップも筐体接地と共通です。
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→ これにより、BNCの外側が常にAC電源の接地電位と同電位となります。
■ フローティングではない
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一般的なベンチトップオシロは「フローティング測定」ではありません(例外: 一部のバッテリー駆動オシロやアイソレーションプローブ使用時)。
2. 誤接地が招く危険
■ 接地電位差によるショート
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測定対象のGNDと電源接地が絶縁されていない場合
プローブのGNDを接続すると、意図せず大電流が流れて破損・火花・感電事故が発生する恐れがあります。
■ 接地ループによるノイズ・誤動作
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複数の接地ポイントを持つと、接地ループが発生し、ノイズが乗る、測定値が乱れるなどの問題が出ます。
3. 安全な測定のためのポイント
状況 | 注意点 | 対策例 |
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通常の低電圧回路 | プローブのGNDは1か所だけ接続 | 配線短く、GNDクリップ確実に |
商用電源や高電圧回路 | 絶対にプローブGNDを直接接続しない | アイソレーションプローブ、高電圧差動プローブ |
インバータ・スイッチング電源 | 浮遊容量で高周波ノイズが乗りやすい | 差動プローブを使用 |
フローティング測定が必要 | オシロ全体を絶縁するのは危険 | バッテリー駆動機、光絶縁プローブ使用 |
4. 接地と安全の要点まとめ
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プローブGNDは慎重に接続する
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高電圧や商用電源測定には専用プローブを使用
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複数の接地ポイントを作らない
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オシロスコープ本体のPE接地は外さない
5. 事故例
① 電源ライン(AC100V/200V)誤接続事故
状況
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電源回路の動作波形を測定しようとした技術者が、ホット(L)側にプローブのグランドクリップを接続してしまった。
結果
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プローブGNDがオシロスコープの筐体を通じて接地されているため、商用電源のホットと接地間に直接短絡が発生。
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瞬間的に大電流が流れ、以下の現象が発生:
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ブレーカーが遮断
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プローブのグランドワイヤが焼損
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スパーク・発煙・機器破損
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感電のリスク
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技術的背景
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日本の商用電源ではホット-ニュートラル間は100V(または200V)、ホット-アース間も100Vが加わる。
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オシロスコープが接地されているため、プローブGNDは電力系統のアースと直結。
② インバータ・スイッチング電源測定時の事故
状況
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DC-DCコンバータやインバータの「スイッチング素子のドレイン」「モータドライブ回路の出力」を直接プローブGNDで測定。
結果
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スイッチング素子の高電位部と接地を短絡
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高電流が流入し、以下の現象が発生:
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IGBTやMOSFETの即時破壊
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スイッチング電源回路の過電流保護作動
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フィルター素子やプリントパターンの焼損
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技術的背景
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スイッチング素子のドレイン/コレクタ側は絶縁されていることが多く、直接GND接続はNG。
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フローティングまたは差動測定が必要。
③ 車載(EV・HV)バッテリ測定時の事故
状況
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電気自動車の高電圧バッテリー系統(300V~800V)にプローブGNDを不用意に接続。
結果
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絶縁破壊、電源系統の短絡
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重大な感電リスク、バッテリー保護回路動作、場合によっては車両火災につながる可能性
技術的背景
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車載高圧回路は絶縁されているが、測定側で誤って筐体接地すると短絡。
④ 接地ループによる微小ノイズ測定ミス
状況
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オーディオ回路やセンサー回路など、微小信号測定時に複数箇所にGNDを接続。
結果
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微弱なノイズが大きく観測される
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信号の波形が正確に測定できない
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不要輻射試験で問題発生
技術的背景
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複数の接地点間に数mV~数Vの電位差が生じ、接地ループ電流が乗りノイズ源となる。
⑤ 医療・生体計測分野での感電事故リスク
状況
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生体信号測定(心電図・脳波など)で一般的なプローブを接続。
結果
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被験者に対する漏洩電流・感電の危険性
技術的背景
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IEC60601などの医療安全規格では非常に厳しい漏洩電流制限がある。
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アイソレーションアンプや光絶縁プローブ必須。
6. 最後に: SIGLENT SHS1000X の簡単な紹介
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完全絶縁型のオシロスコープ
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測定端子は他チャネル・筐体アース・電源回路すべてから絶縁
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各チャネルが独立してフローティング測定可能
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高電圧系統(CAT III 600V / CAT II 1000V)対応
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バッテリー駆動で現場保守や安全測定に非常に適している
高電位差の安全な現場測定が必要な場合に非常に有効な機種