ファンクションジェネレータ入門(7)実験・開発での活用例

 

■はじめに

ファンクションジェネレータは、さまざまな信号を自在に生成できることから、実験や開発の現場で幅広く活用されています。単なる波形確認だけでなく、制御信号の模擬、動作検証、故障再現、特性評価など多岐にわたる応用が可能です。

今回は、実際の電子回路や機器開発において、ファンクションジェネレータがどのように活用されているか、具体的な事例を交えてご紹介します。

 

■電源回路の応答特性評価

電源回路に対して、急峻な電圧変化やノイズ成分を加えることで、その応答性や耐性を評価することができます。

・ パルス波を使って負荷変動を模擬
・ ランプ波でスロースタート応答を確認
・ ノイズ波形で電源レギュレータのリップル耐性を評価
・ スイープ波形で動的負荷特性の変化を確認

特にDC-DCコンバータやLDOの開発では、出力変動に対する応答時間やオーバーシュート/アンダーシュートの確認が重要です。

 

■モータ制御系の模擬信号生成

モータドライバや制御ICの開発においては、制御パルスやセンサ信号を模擬的に出力することで、回路の応答や誤動作の有無をチェックします。

・ PWM波形で回転速度制御の信号を模擬
・ パルス列でエンコーダ信号を再現
・ バースト出力で断続的な制御状態を模擬
・ 任意波形で実測データを再生

センサがまだ実装されていない状態でも、ジェネレータを使えば動作確認が可能です。

 

■センサ信号の代用

センサやアクチュエータの出力をファンクションジェネレータで模擬することで、システム全体の動作確認が行えます。

・ 正弦波で振動センサの信号を模擬
・ パルス波で距離センサや速度センサを模擬
・ 任意波形で加速度波形や温度変化を再現
・ ノイズ付加でノイズ耐性テストも同時実施可能

これにより、センサがなくても制御回路や表示装置の評価が可能になります。

 

■オーディオ回路・アンプの周波数特性試験

オーディオ機器の開発では、入力信号として正弦波やスイープ波を使って、アンプやフィルタの特性を評価します。

・ 1kHz正弦波で歪率測定
・ スイープ信号で周波数特性(ゲイン/位相)を確認
・ ノイズ波形でフィルタの除去性能を評価
・ 任意波形で実録音信号を再生し実用的評価を実施

スピーカーテストやイコライザ調整にも活用可能です。

 

■通信回路での搬送波・変調信号生成

RF回路や通信モジュールの開発では、搬送波や変調波を模擬信号として出力する場面もあります。

・ 高周波正弦波で搬送波信号を模擬
・ パルス変調、ASK、FSKの模擬(高機能機種)
・ スイープ波で受信特性や選択度の確認
・ 外部トリガと連携してパケット状信号を再現

変調器付きのモデルを使用すれば、より高度な通信試験にも対応可能です。

 

■異常波形・故障再現のための任意波形活用

一度発生したトラブルや誤動作波形を任意波形として保存・再生することで、再現テストが可能になります。

・ 過去の実測データをCSVやBINで取り込み
・ 再現性のある故障波形で保護回路の検証
・ 波形の一部にノイズや歪みを加えて境界テスト
・ マルチチャンネル出力で複雑な再現環境を構築

再現性の高い検証は、製品の信頼性を高める鍵となります。

 

■教育・トレーニング用途

ファンクションジェネレータは、教育機関や研修施設でも重要な実習機材として使われています。

・ 基本波形を用いたオシロスコープの使い方実習
・ 電子回路の応答観察(RC回路・フィルタ回路など)
・ PWM制御の基礎学習
・ ノイズ耐性の理解・実験

学生や新人技術者にとって、「目に見える信号」を扱うことで、直感的な理解が進みます。

 

■自動試験システムへの組み込み

GPIB、USB、LAN、RS-232Cなどの外部制御インターフェースを持つファンクションジェネレータは、自動試験装置の一部としても組み込まれています。

・ SCPIコマンドで波形・周波数・振幅を遠隔制御
・ PLCやPCからの制御で試験の自動化
・ リモート設定で多品種少量の試験にも対応
・ ログ記録や測定データの保存連携も可能

自動化により、人的ミスの削減や検査スピードの向上が図れます。

 

■まとめ

ファンクションジェネレータは、開発・実験・教育・品質管理といった多様な現場で、波形信号を自在に操る「万能ツール」として活躍しています。用途や目的に応じて、適切な波形を選び、他の計測器と連携しながら活用することで、測定精度の向上と開発効率の改善が期待できます。

 


ファンクションジェネレータ入門 全9回 目次案(案)

第1回 ファンクションジェネレータとは?
基本的な役割や波形の種類(正弦波・方形波・三角波など)、用途とオシロスコープとの組み合わせについて解説。

第2回 出力波形の種類と特性
各種波形の用途・特性・注意点(例えば方形波の立ち上がり、パルス幅など)を詳しく説明。

第3回 周波数・振幅・オフセットの設定方法
よく使う3つの基本パラメータについて具体的な操作方法と応用事例を紹介。

第4回 高機能波形:パルス・ランプ・ノイズ・任意波形
基本波形以外に搭載されている特殊波形や、任意波形(Arbitrary Waveform)の活用方法を紹介。

第5回 バースト・スイープ・リニア/ログ制御
時間変化を加えた信号生成の方法と、フィルタやアンプ特性評価への応用例を紹介。

第6回 外部トリガ・シンクロ機能の使い方
外部機器との同期、波形開始タイミング制御など、高度な実験に必要なトリガ設定を解説。

第7回 実験・開発での活用例
電源回路評価、モータ制御、センサテストなど、実際の応用例に基づいた使い方紹介。

第8回 トラブル事例とその対策
信号出力がうまくいかない、波形が歪む、オシロに信号が映らない等の原因と対処法。

第9回 最新技術と今後の展望
多チャネル化、DDS方式、デジタル波形合成、PC連携など、最近の機能動向や選定ポイン