ファンクションジェネレータ入門(8)トラブル事例とその対策
■はじめに
ファンクションジェネレータは、信号生成において非常に便利なツールですが、設定ミスや接続方法の誤りにより「意図した信号が出ない」「波形が乱れる」「オシロスコープに表示されない」といったトラブルが発生することもあります。
本稿では、ファンクションジェネレータの使用時によくあるトラブル事例とその原因、具体的な対策方法について解説します。
■波形が表示されない・出力されない
最も多く寄せられるトラブルが、「出力設定したはずなのに波形が見えない」というものです。
・ 出力ONになっていない
・ ケーブルやBNCコネクタが緩んでいる、断線している
・ 振幅が小さすぎてオシロスコープに映らない
・ 出力インピーダンスがオシロ側と合っていない
・ 出力先が誤って負荷短絡されている
【対策】
・ 出力ON状態([Output]ボタンなど)を確認
・ ケーブルの交換や接続確認を行う
・ オシロスコープの垂直感度を調整する
・ 必要に応じて1:1や10:1プローブの選択を見直す
・ 出力端子に適切な終端を設ける(50Ωなど)
■設定が反映されない・波形が歪む
設定した波形とは異なる形が出力されたり、表示波形が歪んだりすることもあります。
・ 設定値が未確定状態(Enter押下忘れなど)
・ 波形選択が切り替わっていない
・ 任意波形の再生がうまくいっていない
・ 高周波数設定により波形が劣化している
・ 負荷インピーダンスにより波形が変形している
【対策】
・ 設定変更後に必ず確定操作を行う
・ 波形タイプ(正弦波、矩形波など)を再確認
・ 任意波形はメモリサイズやフォーマットを確認し再登録
・ 波形のスレッショルドや立ち上がり時間に注意する
・ 必要に応じてアッテネータやバッファを挿入
■周波数が安定しない・変化して見える
波形は表示されているが、周波数が変動して見える、あるいは表示が不安定になるケースです。
・ オシロスコープ側のトリガ設定が不適切
・ ジェネレータの周波数精度が不十分
・ 外部ノイズによる影響
・ 高感度設定時に観測ノイズを拾っている
【対策】
・ オシロスコープのトリガモード(エッジ、シングルなど)を適切に設定
・ トリガレベルを調整し、安定したポイントで検出
・ ファンクションジェネレータのクロック源を外部参照に切り替える
・ 周囲のノイズ源を遮蔽・電源経路を見直す
■外部トリガが動作しない
外部信号を使ってジェネレータを制御しようとしても、波形が出ない・誤動作することがあります。
・ トリガのレベルが規定に達していない
・ 立ち上がりエッジ/立ち下がりエッジが逆
・ トリガ入力端子が正しく接続されていない
・ ノイズをトリガとして誤認識している
【対策】
・ 入力信号の振幅とエッジを確認(TTL準拠など)
・ トリガエッジ設定を見直す
・ トリガケーブルをできるだけ短く、シールド付きにする
・ 必要に応じてスレッショルド調整可能なジェネレータを使用
■他機器との同期がうまくいかない
複数のジェネレータや測定器と連携したい場合、波形がズレたり不安定になることがあります。
・ マスタースレーブの設定が逆
・ クロックソースが一致していない
・ 同期信号の遅延や位相ズレ
・ GNDループによるノイズ発生
【対策】
・ 1台をマスター、他をスレーブに設定
・ 必要に応じて外部クロック(10MHzなど)を共有
・ 同軸ケーブルの長さ・伝送距離を最小に
・ すべての機器を共通GNDで接続し、絶縁トランス等を活用する
■過大出力・機器損傷のリスク
誤設定により、測定対象やジェネレータ本体にダメージを与える場合もあります。
・ 出力電圧が回路の定格を超えている
・ 長時間連続出力により発熱・劣化が進行
・ 誤って高電圧負荷に接続してしまう
・ プローブやケーブルが耐圧を超えて破損
【対策】
・ 出力電圧・オフセットを慎重に設定し、データシートを確認
・ 長時間運用時は放熱や動作温度をチェック
・ 測定対象の定格や許容信号レベルを把握しておく
・ 必要に応じて保護回路やヒューズを用意する
■任意波形が読み込めない・出力されない
高機能機種では任意波形が使用できますが、うまく再生できないトラブルも見られます。
・ ファイル形式や解像度が不適合
・ メモリサイズ超過やセグメント数制限
・ 通信エラーによりデータ転送失敗
・ 波形のループ/再生条件が未設定
【対策】
・ 指定フォーマット(CSV、BINなど)に変換してから読み込む
・ 波形長やポイント数の上限を確認する
・ USB接続やLAN経由でのファイル転送の状態を確認
・ 再生モード(シングル/連続/トリガ)を明確に設定
■まとめ
ファンクションジェネレータは多機能ゆえに、設定や接続のミスがトラブルに直結することがあります。しかし、各トラブルの原因と対策を理解しておけば、安定した動作と精度の高い信号出力が可能になります。
トラブルが発生したときは焦らず、一つずつ設定や接続を確認し、基本に立ち返ることが解決への近道です。
ファンクションジェネレータ入門 全9回 目次案(案)
第1回 ファンクションジェネレータとは?
基本的な役割や波形の種類(正弦波・方形波・三角波など)、用途とオシロスコープとの組み合わせについて解説。
第2回 出力波形の種類と特性
各種波形の用途・特性・注意点(例えば方形波の立ち上がり、パルス幅など)を詳しく説明。
第3回 周波数・振幅・オフセットの設定方法
よく使う3つの基本パラメータについて具体的な操作方法と応用事例を紹介。
第4回 高機能波形:パルス・ランプ・ノイズ・任意波形
基本波形以外に搭載されている特殊波形や、任意波形(Arbitrary Waveform)の活用方法を紹介。
第5回 バースト・スイープ・リニア/ログ制御
時間変化を加えた信号生成の方法と、フィルタやアンプ特性評価への応用例を紹介。
第6回 外部トリガ・シンクロ機能の使い方
外部機器との同期、波形開始タイミング制御など、高度な実験に必要なトリガ設定を解説。
第7回 実験・開発での活用例
電源回路評価、モータ制御、センサテストなど、実際の応用例に基づいた使い方紹介。
第8回 トラブル事例とその対策
信号出力がうまくいかない、波形が歪む、オシロに信号が映らない等の原因と対処法。
第9回 最新技術と今後の展望
多チャネル化、DDS方式、デジタル波形合成、PC連携など、最近の機能動向や選定ポイン