
なぜVNAが必要なのか?スペアナとの違いと選定ポイント
■
VNAとスペアナの違いとは?
VNA(ベクトル・ネットワーク・アナライザ)とスペアナ(スペクトラムアナライザ)は、どちらも高周波信号を測定するための計測器ですが、その役割と測定対象は大きく異なります。
スペアナは主に信号の周波数成分やレベルを観測する装置であり、発信される信号のスペクトルを分析することに特化しています。ノイズ測定、スプリアス解析、占有帯域測定、EMC対策などで活用されます。
一方でVNAは、信号源と被測定物(DUT)間でどれだけ信号が反射・透過するか(Sパラメータ)を測定します。アンテナ、フィルタ、アンプ、ケーブルなどの伝送特性評価が主な用途です。
つまり、スペアナ=未知の信号の「観察」、VNA=信号を与えてそのレスポンスを「解析」という違いがあります。
■
VNAが測定する「Sパラメータ」の意義
VNAは「Sパラメータ(Scattering Parameters)」と呼ばれる指標を測定します。これは、入出力ポート間の反射や透過の比率を周波数ごとに評価したものです。
・S11:入力ポートへの反射(インピーダンス整合の評価)
・S21:入力から出力への伝送(損失・ゲイン・フィルタ特性)
・S12:出力から入力への逆方向伝送
・S22:出力ポートへの反射
これらはすべて**振幅だけでなく位相も含めた情報(ベクトル)**として測定されるため、回路の複雑な挙動を可視化することが可能です。
スペアナでは測定できない「反射の方向性」や「伝送の量と質」を定量的に知るために、VNAは欠かせない存在なのです。
■
VNAとスペアナの比較表
項目 | VNA | スペアナ |
---|---|---|
測定対象 | 回路の特性(Sパラメータ) | 電波・信号のスペクトル |
測定するもの | 反射、透過、位相 | 周波数、パワー、ノイズ |
必要な信号 | 内蔵信号源から供給 | 外部信号を観測 |
代表的な測定 | インピーダンス整合、挿入損失、群遅延 | スプリアス、占有帯域、隣接チャネル干渉 |
位相情報 | 測定可能(ベクトル) | 測定不可(スカラ) |
主な用途 | アンテナ、ケーブル、フィルタ、アンプ評価 | 無線機器の電波監視、EMC対策、通信確認 |
■
どんな場面でVNAが必要になるのか?
VNAが必要とされるのは、以下のような“回路や部品の特性”を周波数ごとに詳しく解析したい場合です。
●アンテナの整合確認(S11)
共振周波数や反射特性を確認して、マッチングが適正かどうかを評価します。VSWRやリターンロスの確認も可能。
●フィルタの帯域評価(S21)
通過帯域、遮断帯域、挿入損失、群遅延などを可視化。周波数応答の正確な把握に最適です。
●ケーブルや基板の伝送評価
伝送路におけるロス、反射、整合の評価により、EMIの発生や伝送品質の低下を事前に把握できます。
●高周波アンプのゲイン測定
S21でゲインを周波数軸で把握し、安定性や帯域幅、整合性も同時に評価できます。
これらはスペアナでは測定できない内容であり、“回路のふるまいを見える化”するためにVNAが不可欠です。
■
選定ポイント:どのVNAを選ぶべきか?
VNAを選ぶ際は、以下の要素を考慮すると失敗がありません。
【1】周波数レンジ
対象の製品・信号が含まれる帯域をカバーしているか。
例:2.4GHz帯の無線モジュール評価なら最低3GHzまで必要。
【2】ポート数
多ポートデバイスや差動測定を行う場合、2ポート以上のモデルが必要です。
【3】測定精度と位相安定性
微細な整合やフィルタ特性を見るには、高精度・低ノイズの測定が必要。
【4】校正機能
SOLTやTRL、ECal対応など、用途に応じたキャリブレーション方法が選べるか。
【5】操作性と表示機能
スミスチャートやトレースの複数表示、タッチパネル対応の可視性なども重要です。
■
製品例:
●SIGLENT SNA5000Aシリーズ
最大26.5GHzまで対応可能な高性能VNA。4ポート対応もあり、本格的なRF評価に最適。USB/LAN制御、スミスチャート、時間領域変換(TDR)機能も搭載。
■
まとめ:スペアナとVNAは用途が異なるが補完関係にある
スペアナとVNAは、どちらも高周波領域で不可欠な測定器ですが、測定する対象・目的が異なります。
スペアナは“信号の中身”を見るものであり、VNAは“部品や回路の性質”を見るものです。
電波を出しているか?→スペアナ
回路の整合は取れているか?→VNA
というように使い分けることで、開発・評価・保守の各段階でより精度の高い検証が可能になります。
どちらか一方で全てをカバーすることはできないため、両者の違いを正しく理解し、目的に合った機器を導入することが、精度と効率の向上に直結します。