非線型性(クロスオーバー歪み)とは?
非線型性とは、入力信号と出力信号の関係が比例しない性質のことです。つまり、入力が2倍になったからといって、出力も2倍になるとは限りません。
その中でも、特にオーディオアンプなどで問題となるのがクロスオーバー歪みです。これは、信号がプラスからマイナス、またはマイナスからプラスに切り替わる(ゼロボルトを横切る)際に発生する非線型性のひとつです。
なぜクロスオーバー歪みが発生するのか?
一般的なオーディオアンプは、NPNトランジスタとPNPトランジスタのペアを使って、信号のプラス側とマイナス側をそれぞれ増幅します。このトランジスタには、わずかですが動作を開始するためのバイアス電圧が必要です。
バイアス電圧が適切に設定されていないと、信号がゼロボルト付近の非常に小さな領域にあるとき、どちらのトランジスタも十分にオンにならず、出力信号が一時的に途切れてしまいます。この途切れが、まるで波形がゼロボルト付近で不自然に交差(クロスオーバー)しているように見えることから、「クロスオーバー歪み」と呼ばれます。
クロスオーバー歪みの影響
クロスオーバー歪みが発生すると、元の波形にはなかった高調波成分が生成され、特に静かな音や繊細な音を再生する際に、音がザラザラしたり、硬質になったり、情報が失われたりする原因になります。
解決策:バイアス電流の調整
クロスオーバー歪みを解決するためには、トランジスタのバイアス電圧を適切に設定し、わずかに電流を流し続ける(アイドリング電流)必要があります。
このアイドリング電流が流れることで、信号がゼロボルトを横切る瞬間でも、両方のトランジスタがスムーズに動作する状態を保つことができます。この動作方式をA級動作といい、歪みをほとんどなくすことができます。しかし、常に電流が流れているため、多くの熱を発生させ、効率が悪くなるという欠点があります。
一方で、AB級動作では、A級とB級(完全にトランジスタがオフになる方式)の中間として、ゼロクロス付近のみA級動作に近い状態を保つことで、効率と音質の両立を図っています。現代のオーディオアンプの多くは、このAB級動作を採用しています。