
GaN(窒化ガリウム)デバイスの評価において、パルスド 測定は非常に重要な手法です。これは、従来のDC(直流)測定では捉えきれない、デバイスの特性を正確に評価するために用いられます。
GaNデバイスにおける課題
GaNデバイス、特にGaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)は、高周波・高出力用途で優れた性能を発揮しますが、以下の問題がその特性評価を難しくしています。
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自己発熱(Self-Heating): 高い電力密度で動作するため、デバイスが自己発熱します。これにより、チャネルの温度が上昇し、移動度が低下してドレイン電流 () が減少します。DC測定ではこの熱効果が常に存在するため、デバイス本来の(等温状態での)特性を正確に把握することが困難です。
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トラップ効果(Trapping Effects): GaNデバイスには、表面や界面、バリア層などに電子や正孔を捕獲する「トラップ」が存在します。これらのトラップは、印加される電圧や時間の変化によって電荷を捕獲・放出するため、デバイスの電流・電圧特性に時間依存性の変動(ヒステリシス)を引き起こします。これにより、DC測定では「電流コラプス」と呼ばれる現象が発生し、ドレイン電流が設計値よりも低くなることがあります。
パルスド SMUとは
パルスド SMU(Source-Measure Unit)は、これらの課題を解決するために開発された測定システムです。SMUは、電圧を印加(Source)し、その結果流れる電流を測定(Measure)する機能を備えた機器です。
パルスド 測定では、ゲート電圧()とドレイン電圧()を非常に短い時間幅(ナノ秒からマイクロ秒)のパルスで印加し、そのパルス中の電流を測定します。この手法の主な特徴は以下の通りです。
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超高速パルス: 短い時間幅のパルスを使用することで、測定中にデバイスが自己発熱するのを防ぎ、ほぼ等温状態での特性を測定できます。
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トラップ効果の抑制: 短いパルス幅は、トラップが電荷を捕獲・放出するのに必要な時間を与えません。これにより、トラップの影響を最小限に抑えた、「トラップフリー」なデバイス本来の特性を評価できます。
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ダイナミック特性の評価: DCバイアス点から短いパルスを印加することで、実際のRF(高周波)動作に近い条件でのデバイス特性を評価できます。また、パルス幅やパルス間隔を変化させることで、トラップの捕獲・放出時間を解析することも可能です。
測定システム構成
パルスド 測定システムは、通常、以下の要素で構成されます。
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パルスジェネレータ(Pulse Generator): ゲートおよびドレインに印加する高速な電圧パルスを生成します。
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SMU(Source-Measure Unit): パルス印加中の電流を高速でサンプリング・測定します。
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プローブステーション(Probe Station): デバイス(ウェハレベル)に接触するためのプローブと、温度制御機能(ヒーターやチラー)を備えています。
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制御ソフトウェア: 測定パラメータの設定、データ取得、解析を行います。
応用と利点
パルスド 測定は、GaNデバイスの以下の特性評価に不可欠です。
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電流コラプス解析: DC特性とパルス特性を比較することで、電流コラプスの原因(トラップの存在)を特定し、その影響を定量的に評価します。
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しきい値電圧()の評価: トラップの影響を除去した正確な$V_{th}$を測定します。
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移動度(Mobility)の評価: トラップや自己発熱の影響を除去した、デバイス本来の電子移動度を測定します。
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信頼性試験: ゲートストレスやドレインストレスを印加し、その後のパルス測定で特性の変化を追跡することで、デバイスの長期信頼性を評価します。
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モデル抽出: 高精度なデバイスモデルを構築するために、自己発熱やトラップ効果のない、純粋なデータが必要とされます。パルス測定は、このための基礎データを提供します。
GaNデバイスの性能を最大限に引き出し、信頼性の高い製品を開発するためには、パルスド 測定が不可欠な技術となっています。