
エレクトロマイグレーション(EM)試験は、半導体デバイスの信頼性を評価するために不可欠な試験です。特に、VMM(Voltage Monitoring Method:電圧監視法)は、EM試験において抵抗変化をリアルタイムで監視する一般的な手法です。
VMMを用いたEM試験の一般的な方法と条件について、以下にまとめます。
1. 試験の原理
エレクトロマイグレーションは、配線中の電子の移動(電子風)が金属原子を押し出し、空孔(ボイド)や堆積(ヒル)を形成することで、配線の電気抵抗が増加し、最終的には断線に至る現象です。
VMMは、この現象を捉えるために、試験中の配線に一定の電流を流し続け、その配線にかかる電圧を継続的にモニタリングします。配線の断面積が減少すると抵抗が増加するため、オームの法則()に従い、電圧が上昇します。この電圧の上昇を閾値として、故障と判断します。
2. 試験方法の概要
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試験サンプル(DUT: Device Under Test)の準備:
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EM試験専用の試験パターン(ライン幅が狭い配線や、接合部などEMが起こりやすい箇所)が形成されたウェーハやチップを使用します。
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信頼性の高い接続方法(はんだボール、プローブ接触など)で、DUTを試験ボードに実装します。
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試験環境の設定:
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温度: EMは熱によって加速されるため、高温環境下(例えば、150℃~250℃)で試験を実施します。温度は均一に保つ必要があります。
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電流密度: EMは電流密度が高いほど加速されるため、実使用時よりも高い電流密度(例えば、~)を印加します。
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モニタリングシステム: DUTに一定の電流を印加する電流源と、その際の電圧をリアルタイムで測定・記録するシステム(データロガーなど)を接続します。
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試験の実行:
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設定された高温環境下で、DUTに規定の電流を印加し、電圧のモニタリングを開始します。
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電圧の変化を継続的に記録し、あらかじめ設定した故障判定基準(例えば、初期抵抗値から20%上昇など)に達した時点で試験を停止します。
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データの解析:
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記録された電圧(抵抗)の経時変化データを解析し、故障までの時間(Time to Failure:TTF)を求めます。
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複数のサンプルで得られたTTFデータから、ワイブル解析などを用いて信頼性寿命を推定します。
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ブラックモデルやバイドモデルなどの信頼性評価モデルを用いて、加速試験の結果から実使用環境での寿命を予測します。
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3. VMMの利点
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リアルタイム監視: 故障に至るまでの抵抗変化をリアルタイムで把握できるため、故障メカニズムの解明に役立ちます。
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簡便性: 特別な光学観察装置などを必要とせず、電気的な測定だけで評価が可能です。
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高精度: 微小な抵抗変化も捉えることができ、高い精度で故障を判定できます。
4. 関連する規格
エレクトロマイグレーション試験には、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)やJEITA(Japan Electronics and Information Technology Industries Association)などの業界団体が定める規格やガイドラインが参考にされます。これらの規格には、試験条件(温度、電流密度)や評価方法に関する推奨事項が含まれています。
ただし、具体的な試験条件は、評価対象のデバイス(材料、構造)や目的によって異なります。
詳細な試験方法や条件については、評価対象のデバイスや材料に合わせた専門的な知見が必要となります。必要に応じて、信頼性評価機関や試験装置メーカーに相談することをお勧めします。