
ドハティ増幅器(Doherty Power Amplifier、DPA)におけるバックオフ範囲(Back-Off Range)とは、最大出力電力(飽和点)から効率がほとんど低下せずに高い値が維持される出力電力の範囲を指します。📡
バックオフの概要
一般的なRFパワーアンプ(PA)は、最大出力電力に近い飽和点で最も高い効率を示します。しかし、最近の無線通信規格で使われる変調信号(例:LTE、5G NR)は、ピーク対平均電力比(PAPR)が高いため、信号の大部分が平均電力レベル、つまり飽和点より低い電力レベル(バックオフレベル)で動作します。
従来のPAをこのバックオフレベルで動作させると、効率が著しく低下し、消費電力が増大し、発熱の問題が生じます。
ドハティ増幅器とバックオフ範囲
ドハティ増幅器は、この問題を解決するために考案された回路構成です。キャリアアンプとピーキングアンプの2つの増幅器を並列に接続し、信号の電力レベルに応じてそれぞれの増幅器の動作を制御することで、バックオフレベルでの高効率化を実現します。
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低電力レベル(バックオフ時): キャリアアンプのみが動作し、ピーキングアンプはオフになっています。この時、キャリアアンプは適切な負荷変調によって高効率を維持します。
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高電力レベル(飽和点近く): ピーキングアンプが動作を開始し、キャリアアンプと協力して出力を増大させます。この時、両方の増幅器が飽和点に近い状態で動作するため、高い効率を保ちます。
この仕組みにより、ドハティ増幅器は、飽和点からある程度の範囲のバックオフレベルまで、高い効率を維持できます。この効率がほとんど低下しない範囲が「バックオフ範囲(Output Power Back-off Range、OBO)」と呼ばれます。
従来のドハティ増幅器では、このバックオフ範囲は約6dBでしたが、現代の無線通信における高PAPR信号に対応するため、非対称型ドハティ増幅器や多段ドハティ増幅器など、バックオフ範囲を9dB、10dB、あるいはそれ以上に拡張する研究や技術が開発されています。
Ceyear 3674VNAによるアンプ評価例:横軸は、周波数とパワー、縦軸はGain(S21)、3D表示となります。
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