アダプティブ・コーディング・変調(ACM: Adaptive Coding and Modulation)は、無線通信の伝搬路(チャンネル)の状態に応じて、変調方式(Modulation)と符号化率(Coding Rate)を自動的に切り替えて、通信のスループット(データ転送速度)と安定性を最適化する技術です。
主に衛星通信や携帯電話(HSPA、LTEなど)の高速データ通信の基盤技術として利用されています。
仕組み(通信環境に応じた最適化)
ACMは、送信側が受信側の通信環境(信号の強さ、ノイズレベルなど)をフィードバック情報として受け取り、それに応じて「ModCod(モドコド)」と呼ばれる変調・符号化の組み合わせをリアルタイムで変更します。
| 通信環境 | 選択されるModCodの傾向 | スループット | 安定性 |
| 良好(晴天時、近距離など) | 高次変調(例: 64APSK)と高い符号化率 | 高い(多くのデータを送れる) | 低い(エラーに弱い) |
| 不良(雨天時、遠距離など) | 低次変調(例: QPSK)と低い符号化率 | 低い(少ないデータに絞る) | 高い(エラーに強い) |
これは、「回線帯域(車線)を広げるのではなく、回線品質(車種)を最適化する」イメージに例えられます。
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符号化(Coding): データに誤り訂正用の冗長な情報を付加することです。符号化率が低いほど(例: 1/2)冗長性が高まり、データが多少欠けても復元できるため安定しますが、送れるデータ量は減ります。
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変調(Modulation): デジタルデータを電波の波(位相や振幅)に乗せる方式です。高次変調(例: 64APSK, 256QAM)は一度に多くのビットを伝送でき高速ですが、ノイズに弱くなります。
メリット
1. スループットの最大化
従来の衛星通信では、回線が最も悪くなる状況(大雨など)を想定して常に低い速度(安定性は高いが低効率なModCod)で運用する必要がありました。ACMを導入することで、通信環境が良いときには自動的に高速なModCodに切り替え、利用可能な帯域幅を最大限に活用できます。
2. 回線の安定性確保
通信環境が悪化しノイズが増えた場合でも、自動的に安定性の高いModCodに切り替わるため、通信が途絶えることを防ぎ、データのエラー率を低く保つことができます。
3. リソースの柔軟な利用
特に衛星通信において、降雨減衰などの影響が場所や時間によって大きく変動する中で、限られた衛星の通信リソースを効率的かつ柔軟に利用できるため、通信事業者はより多くのユーザーにサービスを提供可能になります。
T&MコーポレーションではNEXTEM社と協調してSIGLENT社/Ceyear社の電子計測器(スペアナ、VSG、VNA)によるACMの評価に必要なシステムの提案を行っております。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談くださいませ。http://tm-co.co.jp/contact/




