
デジタルレーダー(Digital Radar)とは、レーダー信号の処理において、従来のアナログ信号処理に代わり、デジタル信号処理技術を大規模に採用した次世代の高性能レーダーシステムです。
特に、自動車の自動運転(ADAS/自動運転レベル3以上)や、高度な監視・防衛システムで注目されています。
🆚 アナログレーダーとの主な違い
従来のレーダー(特に車載ミリ波レーダー)は、信号処理の一部をアナログ回路で行っていました。これに対し、デジタルレーダーは以下の点で優れています。
特徴 | アナログレーダー | デジタルレーダー |
信号処理 | 主にアナログ回路で処理 | 大部分をデジタル回路・ソフトウェアで処理 |
機能・柔軟性 | 固定的な性能 | ソフトウェアアップデートで性能や機能を変更可能 |
分解能 | 比較的粗い | 超高解像度(「イメージング・レーダー」とも呼ばれる) |
干渉耐性 | 複数のレーダー波が干渉しやすい | 高度な信号処理により干渉を効果的に抑制 |
アンテナ技術 | アナログ移相器などを使用 | デジタルビームフォーミング(DBF)技術を採用 |
📈 デジタルレーダーの主なメリット
デジタル信号処理とデジタルビームフォーミング(DBF)技術を採用することで、従来のレーダーの課題を解決し、飛躍的な性能向上を実現します。
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超高解像度(イメージング):
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信号をデジタル化し、多数の送受信機(チャンネル)をチップに集積することで、角度分解能(ビーム幅)が大幅に向上します。これにより、従来のレーダーでは難しかった、複数の歩行者の分離検知や、停止している小さな物体(段ボールなど)の形状識別が可能になり、より正確な3D環境マップを生成できます。
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柔軟性と進化性(ソフトウェア定義型車両/SDV):
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ソフトウェアによる制御が核となるため、機能のプログラミングや、購入後のソフトウェアアップデートによる性能改善が可能です。例えば、検知距離や視野角、アルゴリズムを後から最適化できます。
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干渉耐性の向上:
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多数の車両がレーダーを搭載するようになると、他車からのレーダー波がノイズとして混入するレーダー干渉が問題になります。デジタルレーダーは、高度な信号処理により、この干渉を効果的に分離・除去できます。
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高度なビーム制御:
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DBF技術により、アンテナの受信ビームの方向をデジタル演算で精密に制御し、同時に複数の受信ビームを形成したり、妨害波の方向にヌル(電波の感度が低い点)を向けて干渉を抑圧したりする高度な処理(アダプティブ・ビームフォーミング)が実現可能です。
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これらの特性から、デジタルレーダーは、完全自動運転(レベル3以上)の実現に向け、カメラやLiDARと並ぶ重要なセンシング技術として位置づけられています。