SIGLENT(シグレント)SDS5000X HDシリーズ デジタル・オシロスコープ

UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)規格では、チップレット間相互接続の信号品質(シグナルインテグリティ:SI)を検証するための主要な指標として、**電圧伝達関数(VTF: Voltage Transfer Function)**と呼ばれる独自の測定が導入されています。

VTFは、従来の高速デジタル通信で用いられるSパラメータ(Scattering Parameter)を基にしつつ、終端抵抗や容量成分の影響を組み込むことで、実際のチップレット環境に即したより正確な性能評価を可能にしています。


 

💡 UCIeにおけるVTFの目的と測定項目

 

UCIe規格がVTFを導入した主な目的は、高帯域幅で動作するチップレット間の相互接続が、規格で定められた信号品質要件を満たしているかを厳密に確認することです。

VTFは主に以下の2つの重要な側面を評価するために使用されます。

 

1. VTF損失(VTF Loss)

 

  • 定義: 送信機(Tx)の入力電圧に対する、受信機(Rx)で観測される電圧の比率を周波数領域で測定したものです。

  • 特徴: 従来のSパラメータの挿入損失 (S21) とは異なり、送信側と受信側の終端抵抗(Rtx, Rrx)と容量成分を計算に含めるため、実際の回路動作に近い損失を評価できます。

  • 判定基準: 設計した相互接続のVTF損失曲線が、特定のデータレートとパッケージタイプ(Advanced Package/Standard Package)ごとに定められたVTF損失マスク(Mask)を上回っている(=損失が許容範囲内である)必要があります。

 

2. VTFクロストーク(VTF Crosstalk)

 

  • 定義: 信号を送信している線路(アグレッサー)から、隣接する線路(被害者)に漏洩するノイズのレベルを測定します。

  • 特徴: UCIe規格では、**19本のファーエンド・アグレッサー(Far-End Aggressors)からのクロストークを考慮し、それらのクロストークを電力和(Power Sum)**として定義します。

  • 判定基準: 設計した相互接続のVTFクロストーク曲線が、特定のデータレートとパッケージタイプごとに定められたVTFクロストークマスク下回っている(=クロストークが許容範囲内である)必要があります。


 

📐 なぜSパラメータではなくVTFを使うのか

 

従来の高速インターフェースでは、主にSパラメータ(特に挿入損失 S21)が使用されてきましたが、UCIeがVTFを採用した背景には、チップレット相互接続の特殊性があります。

  • 実際の終端条件の反映: チップレット間の通信は、一般的に**オンダイ(On-Die)**の終端回路に接続されます。VTFは、この終端回路の抵抗や容量成分を伝達関数に組み込むことで、システム全体のシグナルインテグリティをより正確に評価することができます。

  • シンプルな合否判定: VTFによって定義された損失とクロストークのマスクを用いることで、エンジニアはシミュレーション結果を規格と直接比較し、**設計の適合性(コンプライアンス)**を迅速に判断できます。

VTFは、アイダイアグラム要件と並んで、チップレット設計における信号品質を保証するための鍵となる指標です。