Versal RFシリーズのハードIPは、電子戦(EW)システムにおける信号の迅速な探知、識別、および対策という3つの主要なタスクを、極めて効率的に実現するために活用されます。
EWシステムは、敵のレーダーや通信信号をリアルタイムで解析し、脅威が迫っているかを判断しなければなりません。Versal RFシリーズのハードIPは、この「時間との戦い」においてボトルネックとなる大規模なデジタル信号処理(DSP)を高速化します。
1. 信号の探知・監視(ESM: 電子戦支援)における活用
EWシステムの第一のステップは、広範囲の電波(スペクトラム)から微弱な敵信号を探知することです。
| ハードIP | EWにおける具体的な役割 | メリット |
| RF-ADC(集積されたRFコンバータ) | 広帯域直接サンプリングにより、中間周波数なしにXバンドやKuバンド(最大18 GHz)といった広範囲の周波数を同時に監視します。 | 瞬時帯域幅(IBW)が拡大し、従来のシステムでは見逃されがちだった短時間のパルス信号も捉えやすくなります。 |
| チャネライザ | RF-ADCで取り込んだ数GHz幅の広帯域データを、数百~数千の狭い周波数ビンに瞬時に分割します。 | 特定の信号を分離することで、信号対ノイズ比(SNR)を改善し、微弱な信号の探知精度を向上させます。 |
| FFT/iFFT | 敵レーダーのパルス信号や変調信号の周波数スペクトルをリアルタイムで解析し、周波数ホッピングなどの変化を即座に検出します。 | 超高速なスペクトル解析を実現し、脅威の方向や特徴を迅速に特定します。 |
2. 信号の識別・分析(ELINT/COMINT)における活用
探知した信号がどの国・どの種類の兵器から発せられたものかを特定するために、複雑な処理が必要です。
| ハードIP | EWにおける具体的な役割 | メリット |
| AIエンジン(AIE) | 大量の信号データに対して、機械学習アルゴリズム(例:信号分類、変調認識)を実行します。 | 複雑なパターンや未知の信号を自動的かつ高速に識別し、オペレーターの負担を軽減します。 |
| DSP58エンジン & ハードIP | 特定の信号パラメータ(パルス幅、パルス繰り返し間隔など)を抽出・計算し、データベースと照合する複雑な演算を並列処理します。 | 従来のFPGAでは難しかった超低遅延での分析が可能になり、ミッションクリティカルな状況下での迅速な意思決定を支援します。 |
3. 信号の対策(ECM: 電子対抗手段)における活用
識別された脅威に対して、ジャミング(妨害)信号を生成・送信するステップです。
| ハードIP | EWにおける具体的な役割 | メリット |
| RF-DAC(集積されたRFコンバータ) | 高精度かつ広帯域のジャミング信号(擬似信号やノイズ)を直接RF周波数で生成し、出力します。 | 従来のシステムに比べて、高い周波数俊敏性と広範な出力帯域幅を提供し、多様な脅威に柔軟に対応できます。 |
| チャネライザ/FFT (逆利用) | 複数の狭帯域ジャミング信号を合成したり、特定の周波数だけを狙う精密な電子攻撃のための信号生成を支援します。 | 正確な周波数とタイミングでの妨害を可能にし、消費電力を抑えながら高い効果を発揮します。 |
これらのハードIPを活用することで、Versal RFシリーズは、EWシステム全体を単一チップ上で高集積させ、システム全体の低遅延化、高性能化、小型化(SWaP最適化)を同時に達成します。








