Ceyear社(セイヤー) 4082シリーズ シグナル・スペクトラムアナライザ

Versal RFシリーズのチャネライザ(Channelizer)IPインスタンスをカスケーディング(連結)するのは、広帯域スペクトラムを極めて高い周波数分解能で分析するために行われる、デジタル信号処理(DSP)の重要な手法です。

これは、広大な電波領域(例:EWシステムが監視する全帯域幅)を、詳細な分析が必要な非常に狭いチャネルに段階的に分割するための設計パターンです。


 

🔬 カスケーディングの仕組みと目的

 

Versal RFシリーズのチャネライザIPは、通常、ポリフェーズ・フィルターバンク(Polyphase Filter Bank)とFFT/iFFTを組み合わせて、広帯域入力信号を複数のサブチャネルに分離します。

 

1. 目的:分解能の向上

 

単一のチャネライザIPが広帯域を一定数のチャネル(例えば、64チャネルや128チャネル)に分割するとします。この最初の分割(第1ステージ)では、チャネルの幅がまだ広い(分解能が低い)ため、複数の信号が混在している可能性があります。

  • カスケーディングは、この第1ステージで分離されたチャネルを、次の第2ステージのチャネライザIPの入力として使用し、さらに細かく分割するプロセスです。

  • これにより、システムはより狭い帯域幅を持つチャネルを得ることができ、隠れた微弱な信号や、周波数が非常に近い隣接信号を明確に分離・識別できるようになります。

 

2. 段階的な処理の流れ

 

ステージ 処理内容 目的
第1ステージ (粗いチャネライザ) 💡 広帯域RFデータ(例:1 GHz幅)を、数十〜数百の粗いチャネル(例:10 MHz幅)に分割します。 監視対象となる信号が存在する大まかな周波数領域を絞り込みます。
第2ステージ (細かいチャネライザ) 💡 第1ステージで選ばれた特定の粗いチャネル(例:10 MHz幅)を、さらに数十〜数百の細かいチャネル(例:100 kHz幅)に分割します。 特定の信号の極めて詳細な周波数解析や、変調方式の識別を可能にします。

 

📡 EWシステムでの活用例

 

電子戦(EW)システムにおいて、このカスケーディングは以下の重要な能力を可能にします。

 

1. 微弱信号の抽出(LPI信号対応)

 

  • 軍事分野では、敵は探知されにくいLPI(Low Probability of Intercept)信号を使用することがあります。これは、広帯域にわたって電力を拡散させるため、ノイズの中に埋もれやすい特徴があります。

  • カスケーディングにより周波数分解能を極限まで高めることで、LPI信号の電力を非常に狭いチャネルに集中させることができ、ノイズフロアから信号を浮かび上がらせることが可能になります。

 

2. 信号密度への対応

 

  • 戦場や都市部では、非常に多くの通信・レーダー信号が同時に存在します(高信号密度環境)。

  • カスケーディングされたチャネライザは、広帯域の信号が密集していても、それぞれの信号を分離して個別に処理できるため、リアルタイムでの正確な脅威識別を維持できます。

 

3. ハードウェア効率の最大化

 

  • チャネライザの機能をすべてプログラマブルロジック(ソフトIP)で実現しようとすると、広大なロジック領域と大量の電力が必要になります。

  • Versal RFシリーズでは、この複雑な機能を専用のハードIPブロックで提供しているため、カスケーディングによる高性能化を実現しても、電力と面積の増加を最小限に抑えられます。これは、SWaP(サイズ、重量、消費電力)最適化が必須となる航空機搭載型EWシステムにとって、極めて大きなメリットとなります。