Broadcomの FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator:空隙型バルク弾性波)フィルター が Wi-Fi 7 で決定的に重要と言われる理由は、一言で言えば**「5GHz帯と6GHz帯が近すぎるため、高性能な『壁』がないと通信が混ざってしまうから」**です。

Wi-Fi 7 のポテンシャルを最大限に引き出すために、なぜこのフィルターが不可欠なのか、3つのポイントで解説します。


1. 5GHz と 6GHz の「近接」問題

Wi-Fi 7 の目玉は 6GHz 帯の活用ですが、実は 5GHz 帯の終わりと 6GHz 帯の始まりの間隔(ガードバンド)はわずか 50MHz しかありません。

  • 問題点: 一般的なフィルターでは、このわずかな隙間で信号を急峻にカットすることができません。5GHz で通信している電波が 6GHz の受信機に「ノイズ」として漏れ出し(干渉)、通信速度が大幅に低下したり、接続が切れたりします。

  • FBARの役割: FBARは極めて急峻なカットオフ特性(必要な波だけを通し、すぐ隣の不要な波を鋭く遮断する能力)を持っています。これにより、5GHz と 6GHz を同時に、かつ最高速で動かすことが可能になります。


2. MLO(マルチリンク動作)の安定化

Wi-Fi 7 の主要技術である MLO (Multi-Link Operation) は、複数の帯域(例:5GHz と 6GHz)を同時に使ってデータを送受信します。

  • 同時送受信の難しさ: 自分のデバイスが 5GHz でデータを送信している最中に、同時に 6GHz でデータを受信しようとすると、送信電波が受信回路に回り込んで「自分自身の電波で耳が潰れる(ブロッキング)」状態になります。

  • FBARの解決策: 高い**アイソレーション(分離能)**を持つ FBAR を統合した Broadcom の FiFEM は、送信波の影響を最小限に抑え、MLO 環境下でも安定したスループットを維持します。


3. FiFEM(フィルター統合型FEM)による小型化と効率化

Broadcom はこの FBAR フィルターを、パワーアンプ(PA)や低ノイズアンプ(LNA)と同じパッケージ内に封じ込めた FiFEM を提供しています。

  • 基板面積の削減: 通常、高性能なフィルターは外付け部品として場所を取りますが、統合することで基板上のスペースを大幅に節約できます。これは、部品が密集する最新のスマホや小型ルーターにおいて大きな利点です。

  • 電力効率の向上: フィルターを統合し、SoC側の DPD(デジタル事前歪み補正)と最適化することで、RFFE(フロントエンド)全体の消費電力を最大 40% 削減できるとしています。


まとめ:Broadcom FBAR が選ばれる理由

特徴 Wi-Fi 7 におけるメリット
急峻な選択特性 5GHz/6GHz の同時利用でも干渉ゼロに近い通信。
低挿入損失 フィルターを通しても電波が弱まりにくく、通信距離が伸びる。
高耐電力 Wi-Fi 7 の高出力通信(最大 10W 等)でも壊れず安定動作。
ワンチップ統合 設計の簡素化とデバイスの小型化。

一言でいうと

Wi-Fi 7 という「多車線の高速道路」において、車線同士がぶつからないように完璧なガードレールを設置する技術、それが Broadcom の FBAR フィルターです。

 

 

 

 

 

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