― EMC測定の現場から理解する電磁波放射の本質 ―
EMC試験でよくある失敗パターン
EMC試験において、次のような経験は珍しくありません。
-
実験室では問題なかった基板が、認証試験で放射超過になる
-
ケーブルを少し延ばしただけでピークが数 dB 上がる
-
プローブ位置を変えるとノイズの見え方が大きく変わる
これらの現象は、部品単体の性能ではなく、電流の流れ方とその空間的な広がりに原因があります。
電流は「回路」だけを流れているわけではない
回路図上では、電流は必ず閉ループを形成して流れているように見えます。
しかし実際の基板や配線では、
-
リターンパスが理想通りに戻っていない
-
グラウンドが分断されている
-
電源と負荷の距離が広がっている
といった理由により、電流ループが空間的に広がることがあります。
この「ループの広がり」こそが、放射の出発点です。
配線が長くなると何が起きるのか
配線が長くなると、次の2つが同時に起こります。
-
電流の往復経路が離れる
-
電流が作る磁界と電圧が作る電界が空間に広がる
この状態では、配線は単なる導線ではなく、エネルギーを空間に放出する構造になります。
これが「配線がアンテナとして振る舞う」と言われる理由です。
重要なのは、高周波でなくても、立ち上がりが速ければ同じ現象が起きるという点です。
測定距離によって「見える現象」は変わる
EMC測定では、測定距離によって支配的な物理現象が変わります。
-
基板直近では、電界と磁界は独立して振る舞う
-
距離が離れるにつれて、電界と磁界は結びついて伝搬する
-
十分離れた位置では、電磁波として一定の関係で観測される
そのため、近距離で見たノイズと、規格試験で測定されるノイズは性質が異なります。
なぜEMC試験は遠方で測定するのか
認証試験で用いられる測定距離(例:3 m、10 m)は、
放射源から十分離れ、電界と磁界が安定した関係になる領域を前提としています。
これは、
-
測定結果の再現性を確保するため
-
製品ごとの差を公平に比較するため
という実務的な理由によるものです。
つまり、EMC規格は「アンテナとしてどれだけ放射しているか」を評価していると言えます。
オシロスコープ・近接プローブが有効な理由
一方、設計段階では遠方測定は現実的ではありません。
そのため、以下のような手法が用いられます。
-
オシロスコープによる電圧・電流波形の観測
-
近接電界プローブ・磁界プローブによるスキャン
-
配線位置やリターン経路の変更による比較
これらは「規格値を直接測る」ためではなく、
放射の原因となるエネルギーの流れを可視化するための手段です。
工程設計で重要な視点
EMC対策において重要なのは、
-
電流を流さないことではない
-
高周波を避けることでもない
**「電流がどこを通り、どれだけ広がっているか」**を制御することです。
具体的には、
-
リターンパスを近づける
-
ループ面積を小さくする
-
意図しない共振構造を作らない
これらが、最も確実で再現性の高い対策になります。
© 2025 T&Mコーポレーション株式会社
