この記事では電子部品の寄生成分がインピーダンス特性に与える影響について解説しています。(作者:エンジャー)

電子部品の寄生成分

高周波の回路設計では電子部品の寄生成分の影響は無視できません。この理由は周波数が高くなるほど寄生成分によってインピーダンスが変化するためです。

寄生成分とは

一般的な電気回路では電子部品の定数をもとに回路を設計します。

   

図 理想的な抵抗素子

 

この電子部品の定数は、例えば抵抗であれば抵抗値、コンデンサであれば静電容量、コイルであればインダクタンスというように規定されています。これらの定数をもとにして設計した回路は、概ね1MHz以下の周波数であれば問題なく動作することがほとんどです。

一方でそれより周波数が高くなると、電子部品のリード線に存在する寄生インダクタンス(ESL)、あるいは電子部品の端子間に生じる寄生キャパシタンスによって回路が意図した通りに動作しなくなります。

 

抵抗の寄生成分

ここではリード線付きの抵抗の寄生成分について考えてみます。このリード付き抵抗は抵抗体とリード線によって構成されています。

   

図 抵抗の等価回路

 

このうち抵抗体はカーボン被膜によって構成され、トリミングによって抵抗値が調整されています。リード線も抵抗値を持ちますが、抵抗体の抵抗値と比較すると小さいため無視されることが多いです。一方でリード線が持つ寄生インダクタンスは無視できません。一般的にリード線は5nH/cm程度のインダクタンスを持ちます。そのため抵抗体の両端に1cmのリード線がついていたとすると、合計10nH程度のコイルが接続されていることになります。またリード線間には寄生キャパシタンスも存在し、その大きさは0.5 pF〜5 pF程度となります。このようにリード線付きの単純な抵抗であっても、高周波回路では抵抗だけでなくコイルとコンデンサが接続された回路として取り扱う必要があります。このように寄生成分を加味して表現されたものを等価回路と呼びます。

 

寄生成分の実際

次に1uFのコンデンサを例にして、寄生成分がインピーダンス特性に与える影響をシミュレーションしてみます。回路トポロジーは抵抗、コイル、コンデンサを直列接続した等価回路です。なお抵抗値はコンデンサ内部のESR(寄生抵抗)とリード線の抵抗値をもとに20mΩ、インダクタンスESLはリード線の長さをもとに10nHとしています。

   

図 コンデンサの等価回路モデル

 

この回路で周波数特性をシミュレーションしてみると、1MHz以下では周波数が高くなるにつれてインピーダンスが低下しています。これはコンデンサの性質そのものです。

   

図 コンデンサの等価回路シミュレーション結果

 

ところが周波数が高くなるとインピーダンス特性に大きな変化が生じます。ここでは1.58MHzを境にしてインピーダンスが上昇に転じています。これはコンデンサが自己共振しているためです。自己共振はコンデンサの静電容量Cとリード線の寄生インダクタンスESLによって生じるもので、共振周波数を境にして電子部品のインピーダンス特性が大きく変化しています。

このように自己共振によって電子部品のインピーダンス特性が大きく変化するため、高周波回路の設計においては電子部品の寄生成分やインピーダンス特性を正しく把握しておくことが重要になります。

 

インピーダンスアナライザの活用

電子部品のインピーダンス特性はインピーダンスアナライザを使って測定します。インピーダンスアナライザはその名の通り、電子部品のインピーダンスを解析するための計測器です。

 

       

図 TECHMIZE製 TH2851

 

インピーダンスの測定手法

インピーダンスアナライザで採用されている代表的な測定手法の1つに自動平衡ブリッジ法があります。自動平衡ブリッジ法は100MHz以下の周波数帯で適した測定手法で、低インピーダンス(mΩオーダー)から高インピーダンス(MΩオーダー)まで高い精度で測定できます。

 

インピーダンスアナライザのテストフィクスチャ

インピーダンスアナライザは専用のテストフィクスチャと組み合わせて電子部品を固定します。このテストフィクスチャは電子部品の形状や用途に応じて使い分けすることが望ましく、リード部品用、表面実装部品用、透磁率測定用など様々なバリエーションが存在します。

       

図 リード部品用のテストフィクスチャ TH26047

 

 

       

図 表面実装部品用テストフィクスチャ TH26018C

 

 

       

図 透磁率測定用テストフィクスチャ TH26007A

 

インピーダンス測定の注意点

インピーダンスアナライザでインピーダンス特性を正しく測定するために重要なのが校正です。ここでの校正はインピーダンスの基準値を定めることを意味しており、インピーダンスアナライザでは専用のキャリブレーションキットを用いて校正を行います。

       

図 100Ω抵抗(Standard Load) TH26082A

 

       

図 ショートバー(Standard Short) TH26010

 

       

図 表面実装用のキャリブレーションキット

 

インピーダンスアナライザによる等価回路のフィティング

インピーダンスアナライザでは単純にインピーダンスを測定するだけでなく、電子部品の等価回路をフィッティングする事もできます。回路トポロジーは電子部品の種類によって様々ですが、代表的な回路トポロジーはインピーダンスアナライザに事前に登録されています。例えばTECHMIZE製のTH2851では様々な電子部品に使用可能な等価回路モデルが7パターン搭載されています。

   

図 TH2851に搭載されている等価回路モデル

 

出典:計測展TonghuiとTechmizeが同じものか要確認

これらの等価回路を選択したうえで電子部品のインピーダンスを測定すれば、インピーダンス特性にフィッティングするように各素子の定数が自動で算出されるため、高周波回路の設計に役立てることができます。

 

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