この記事では高周波を理解するうえで欠かせない周波数や位相の概念について解説しています。 (作者:エンジャー)

直流と交流

そもそも電気信号には直流(DC)と交流(AC)の2つの種類が存在します。

   

 

図1 直流と交流

直流(DC)

直流は極性が一定で、かつ時間経過によって大きさが変化しない電気信号(電圧や電流)を指します。英語で Direct Current と表されることから、DCと表記されます。直流の最も身近な例はバッテリーで、常に一定の電圧を電子機器に供給できることが特徴です。

交流(AC)

交流は時間の経過とともに大きさや極性が変化する電気信号です。英語で Alternating Current と表されることから、ACと表記されます。交流の身近な例は家庭のコンセントに供給される商用電源です。交流の電気信号は波としての性質を持っており、これを正弦波と呼びます。

正弦波の特性

正弦波には波長、周波数、位相という重要な特性があります。波長は波の一周期あたりの長さ、周波数は波が1秒間に振動する回数、位相は基準点から見た波の進み具合を表しています。これら3つの特性を商用電源にあてはめると、まず周波数は50Hz(西日本は60Hz)なので1秒間に波が50回振動します。また波長は光の速さ(c≒3.0×108 m/s)を周波数で割ることによって求まり、波長λ=6,000kmとなります。位相は正弦波の開始角度0°を基準として 1°あたり16.6kmずつ進んでいきます。

3つの基本特性

ここでは波長λ、周波数f、位相ωの関係性を整理してみます。

   

図2 基本特性の概要

波長(Wavelength)

波長とは波の一周期の長さを指します。単位は m(メートル)です。波長λは光の速度cを周波数fで割ることによって求まります。

波長と周波数の関係性はある周波数を基準として考えると整理しやすいです。例えば100MHzにおける波長は3mとなり、その3倍の周波数の300MHzでは波長が1m、周波数が100倍の10GHzにおいては0.03m(3cm)というように計算できます。

周波数(Frequency)

周波数は波が1秒間に振動する回数を示します。単位は Hz(ヘルツ)です。周波数 fは波の周期 Tの逆数として計算されます。

高周波回路においては周波数軸で回路を評価することが多いため、周期Tよりも周波数fで信号の性質を表すことがほとんどです。また矩形波、三角波、パルス波など正弦波以外場合、色々な周波数の電気信号の足し合わせたものとして解釈することもできます。

位相(Phase)

位相は正弦波の角度を指します。単位は°(度)またはrad(ラジアン)です。波の角度は別の視点から見ると波の進行度合いという解釈もでき、高周波回路では基準となる角度に対する波の遅れ、または波の進みの大きさを表すものとして扱われています。例えば時間tにおける電圧をV(t)、振幅をV0、角周波数をω(ω=2πf)、位相をΦとすると、正弦波は以下のように表すことができます。

上式において2つの電気信号が同位相、または逆位相の場合に、各電気信号を足し合わせたとすると、同位相の場合は2つの電気信号が足し合わされることによって増幅されます。一方で逆位相の場合は、2つの電気信号が互いに打ち消し合うことによって減衰されます。

   

図3 同位相の信号の足し合わせ

 

   

図4 逆位相の信号の足し合わせ

 

そして高周波回路では信号の位相の違いによって、回路間で不要な干渉(クロストーク)が発生したり、アンテナの伝送効率が低下したりするため、位相のコントロールが重要になります。

 

高周波回路における注意点

一般的な電気回路では伝送線路に伝わる電気信号の周波数が低い、つまり波長が長いため、伝送線路の長さに対して電気信号の位相の影響を無視することができます。具体的な例としては、商用電源の波長λが6,000kmに対してプリント基板の配線パターンは10cm程度と短いため、配線パターン上の信号の位相はすべて同位相と考えられるということです。このような捉え方ができる回路を集中定数回路と呼びます。

一方で高周波回路では伝送線路に対して信号の波長が短いため、伝送線路の位置によって信号の位相が異なります。つまり伝送線路の長さを変えることによって電気回路の性質が変わってしまうということです。このような回路を分布定数回路と呼び、高周波回路ではこの位相が変化する性質を利用して回路間でインピーダンス整合したり、信号をフィルタリングしたりします。この分布定数回路においては電気信号を波として取り扱うことが重要で、その基本として波長、周波数、位相の概念を正しく理解しておくことが大切になります。

 

 

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