この記事ではオシロスコープで使用する様々なプローブの種類と特徴について解説しています。

 

プローブの種類

オシロスコープは電気信号の時間変化を測定できる計測器ですが、接続するプローブの種類によって測定対象を選択できます。また電気信号の性質によって、適切なプローブの種類が異なります。

       

 

測定対象

オシロスコープの測定対象となる電気信号は電圧、電流、特殊と分類できます。特殊には音、振動、重量などが当てはまりますが、使用される頻度が少ないためここでは特殊と一括りにしています。

 

電気信号の性質

電気信号にはシングルエンド伝送方式と差動伝送方式の2つの伝送方式が存在します。シングルエンド伝送では送信側(ドライバ)と受信側(レシーバ)を1本の線で接続し、GNDを信号の帰り道(リターン)として利用することで信号を伝送します。

        

 

 

このとき行き道(信号線)には電圧が掛かっているのに対して、リターンとなるGNDには電圧が掛かりません。シングルエンド伝送は配線スペースを削減できるため電気・電子回路において汎用的に使用されています。

一方で差動伝送ではドライバとレシーバを2本の線で接続し、それぞれを信号線とリターンとします。

        

 

 

信号線とリターンには、GND(0V)または一定のバイアス電圧を基準として正負逆向きの電圧がかかり、両者の差分が信号として伝送されます。差動伝送は配線スペースを要するため用途は限定的で、主に高速デジタル信号の伝送に使用されています。

 

電圧プローブの種類と特徴

電圧プローブはその名の通り、オシロスコープで電圧を測定するために使用するプローブです。

    

 

電圧プローブは方式の違いにより、パッシブプローブとアクティブプローブに分かれます。パッシブプローブは抵抗を介して信号を分圧して、電圧を測定します。一方でアクティブプローブはFETなどの能動デバイスを介して電圧を測定します。

 

汎用プローブ(10:1)

        

Siglent PB470

 

汎用プローブはオシロスコープに付属する10:1の受動プローブで、日常的に最もよく使用するプローブです。10:1と記載されているように、入力抵抗を介して電気信号を1/10に減衰させて電圧を測定します。電気信号を減衰させる理由は、以下の3つです。

  • 回路の動作に影響を与えないため(負荷効果の軽減)
  • 電圧の測定範囲を広げるため(入力電圧範囲の拡大)
  • 周波数帯域を広げるため(周波数帯域の拡大)
        

 

負荷効果の軽減

電圧測定の基本は、回路の動作に影響を与えないことです。測定対象の回路に対して並列に抵抗を接続すると、抵抗にも電流が流れることで回路の動作が変化します。これを負荷効果といい、もとの回路の動作状態に対して測定誤差が生じます。そのため電圧測定に使用する計測器は入力インピーダンスを高くする必要があり、電圧プローブにおいてもこの考え方が適用されます。

 

入力電圧範囲の拡大

オシロスコープで測定可能な電圧範囲は入力最大電圧によって制限されますが、入力抵抗によって電気信号が減衰されることで、より高い電圧まで測定可能になります。

 

周波数帯域の拡大

汎用プローブは入力抵抗と並列に10pF程度の入力コンデンサが接続されています。この入力コンデンサは周波数の高い領域、具体的には数kHz~数10MHzの周波数帯における電気信号の減衰に寄与し、それによって高い周波数までゲインを維持することが可能になっています。

周波数帯域に関連することとして、トリマーコンデンサによる周波数特性の補正があります。このトリマーコンデンサは高周波領域のゲインを調整するために設けられていますトリマーコンデンサの実装箇所はプローブによって異なりますが、例えばSiglent製のPB470であれば、プローブの基台に実装されています。周波数特性の補正はオシロスコープ本体のテスト端子で行うことが一般的で、トリマーコンデンサの回す方向によって波形のエッジがなまったり、鋭角になったりするので、きれいな矩形波となるように調整します。なお周波数特性の補正は、測定で使用するすべてのチャネルで実施する必要があります。

 

        

補正不足

 

 

       

過剰な補正

 

 

 

        

適切な補正

 

 

テストリード

        

テストリード(BNC-ワニ口)

 

テストリードの先端はワニ口クリップとなっており、汎用プローブのように電気信号を減衰するための入力抵抗は備えていません。つまりオシロスコープに対して減衰することなく、電気信号を入力するということです。汎用プローブと比較すると最大入力電圧が低く、周波数範囲も狭くなります。実際に10MHzの矩形波に対して、汎用プローブとテストリードで測定してみると、電気信号の立ち上がりに大きな差があることがわかります。これはテストリードを使用したときに、オシロスコープの入力容量に対して充電時間を要するためです。

 

        

汎用プローブで測定した10MHzの矩形波

 

        

テストリードで測定した10MHzの矩形波

 

一方でテストリードにもメリットはあります。それは電気信号が減衰されないことで、より振幅の小さい信号まで測定できることです。低速のアナログ信号など、周波数帯域よりも感度を優先するような場合には、テストリードに優位性があります。ただし、オシロスコープの一般的な用途においては汎用プローブを使用しておくのが無難です。

 

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