ベクトルネットワークアナライザ (VNA) の具体的な測定手法と事例
ベクトルネットワークアナライザ (VNA) は、その高精度なSパラメータ測定機能により、幅広いRFおよびマイクロ波デバイスの評価に利用されます。以下では、代表的な応用とその具体的な測定手法について解説します。
1. アンテナの特性評価
測定手法
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S11測定
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アンテナのリターンロスやVSWR(電圧定在波比)を測定し、共振周波数を特定します。
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設定手順:
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VNAをキャリブレーション(校正)する(オープン、ショート、ロード、スルー)。
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アンテナをポート1に接続。
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周波数範囲を設定(例:2.4 GHz帯なら2.0〜2.8 GHz)。
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S11を測定してリターンロス、VSWR、共振周波数を確認。
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放射効率
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アンテナから放射されるエネルギーの割合を評価。
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無響室や反射の少ない環境で測定。
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事例
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Wi-FiアンテナのS11測定では、2.4 GHzと5 GHzの共振周波数を持つデュアルバンドアンテナの設計に使用されます。
2. フィルタと共振器の設計と評価
測定手法
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挿入損失 (S21)
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フィルタの通過帯域幅や減衰特性を測定。
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設定手順:
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キャリブレーション(2ポートキャリブレーション)。
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フィルタをVNAのポート1とポート2に接続。
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通過帯域と遮断帯域を確認するために周波数スイープを設定。
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Q値測定
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設定手順:
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共振周波数付近での挿入損失を測定。
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帯域幅と共振周波数からQ値を算出(Q = fr / BW)。
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事例
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5Gフィルタの評価や、狭帯域フィルタの設計に使用されます。例えば、28 GHzのミリ波フィルタは、5G基地局の信号処理において重要です。
3. RF増幅器とミキサーの評価
測定手法
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ゲイン測定(S21)
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増幅器の利得特性を評価。
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設定手順:
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2ポートキャリブレーションを実施。
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増幅器の入力をポート1、出力をポート2に接続。
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周波数範囲を設定し、S21を測定。
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IP3(3次インターセプトポイント)
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非線形歪みの評価。
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設定手順:
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2つの異なる周波数信号を入力。
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出力で生成されるIMD(相互変調歪み)を測定。
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事例
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2.4 GHz帯のWi-Fi増幅器の利得フラットネスやIP3測定に使用されます。これにより、信号歪みや伝送品質を評価できます。
4. 回路インピーダンスと整合評価
測定手法
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インピーダンスマッチング
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スミスチャートを使用して回路のインピーダンス整合を確認。
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設定手順:
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単ポートキャリブレーション。
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インピーダンスの確認対象(アンテナ、フィルタ)を接続。
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スミスチャートでリアクタンスと抵抗成分を確認。
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負荷プル測定
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高出力アンプの効率最大化のために負荷条件を調整。
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事例
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高出力RFパワーアンプの設計において、負荷プル測定は効率と出力パワーの最適化に使用されます。
5. 半導体デバイスのキャラクタリゼーション
測定手法
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Sパラメータ
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トランジスタやFETのhパラメータを測定。
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設定手順:
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2ポートキャリブレーション。
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DUT(デバイスアンダーテスト)を接続。
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S11、S21、S12、S22を測定。
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事例
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GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)トランジスタの高周波特性を評価する際に使用されます。
6. 時間領域反射 (TDR) 測定
測定手法
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TDRモード
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伝送路やケーブルの不連続性や断線箇所を特定。
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設定手順:
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VNAをTDRモードに設定。
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ケーブルや伝送ラインを接続。
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反射の遅延時間から障害位置を計算。
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事例
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高速デジタル回路のPCBトレースや高周波ケーブルの故障診断に使用されます。
7. 5Gおよびミリ波通信の評価
測定手法
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ビームフォーミング評価
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フェーズドアレイアンテナのビーム指向性を確認。
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設定手順:
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アンテナアレイを接続。
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周波数レンジ(例:28 GHz、39 GHz)を設定。
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指向性とゲインパターンを測定。
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事例
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5G基地局のアンテナ設計や、車載レーダーシステムの評価に使用されます。
8. EMC試験と材料測定
測定手法
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シールド効果測定
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シールド材料の反射と吸収特性を評価。
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設定手順:
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材料サンプルをVNAに接続。
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シールド特性をS21として測定。
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事例
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電子デバイスのEMC試験や材料選定に利用されます。