この記事ではインピーダンスの基礎について解説しています。(作者:エンジャー)
オームの法則
電気回路の最も基本的な理論はオームの法則です。オームの法則は電気回路における電圧・電流・抵抗の関係性を示すものです。
このうち抵抗Rは電流の流れにくさを表すもので、単位は Ω【オーム】で表されます。
直列接続と並列接続
回路に流れる電流の大きさは抵抗値によって調整しますが、抵抗値は任意の値に設定できるわけではありません。そのため回路全体で任意の抵抗値とするために、抵抗を直列に接続したり、並列に接続したりします。
図 抵抗の直列接続と並列接続
抵抗を直列に接続すると、各抵抗値の和が回路全体の合成抵抗になります。つまり抵抗を加算することで任意の抵抗値に調整できるということです。例えば合成抵抗を50Ωとしたい場合は、10Ωの抵抗を5個直列接続する、あるいは10Ωの抵抗と20Ωの抵抗を2個直列接続することで、回路の合成抵抗を50Ωにできます。
図 合成抵抗を50Ωとする直列接続の例
一方で抵抗を並列接続すると抵抗値は単純な足し算ではなく、各抵抗の逆数の和で合成抵抗が求まります。逆数というと難しそうに聞こえますが、できることで考えると元の抵抗値よりも低い抵抗値に調整できることが並列回路の利点です。直列回路のときと同じ例で考えると、100Ωの抵抗を2つ並列接続することで合成抵抗が50Ωになります。
図 合成抵抗を50Ωとする並列接続の例
このように2つの抵抗で並列回路とする場合は、各抵抗の和分の積の関係が成り立つため計算も簡単です。
さて、ここまで見てきたように直列回路では抵抗の定数(抵抗値)や配置方法(直列・並列)によって回路中に流れる電流をコントロールしており、その基礎となっているのがオームの法則というわけです。
交流回路とインピーダンス
電気回路の基本的な考え方はオームの法則で理解できますが、電気回路には直流以外に交流があります。直流回路では時間に対して電圧・電流は変化しませんが、交流回路では電圧・電流が時間とともに変化していきます。
図6 直流と交流の違い
そしてこの直流と交流の違いによって、電流の流れにくさを抵抗ではなくインピーダンスとして表します。
インピーダンスとは
インピーダンスは交流回路の電流の流れにくさを表すもので、単位は抵抗と同じくΩ【オーム】で表されます。
図 インピーダンスの概要
ただし交流は電圧・電流が時間とともに変化するため、インピーダンスは単純に電流の流れにくさを表すだけでなく、位相の変化を取り扱う必要があります。
位相の考え方
位相は度数法(°)またはラジアン(rad)で表されます。このことから位相を交流波形の角度と捉えるもできますが、電気回路においては電圧と電流の時間的なズレ、つまり位相差として取り扱うことの方が多いです。
図 位相の取り扱い
この理由はインピーダンスを構成する要素であるコンデンサとコイルによって、電流波形の位相が変化するためです。
インピーダンスの構成要素
交流回路では電流の流れを妨げるのは抵抗だけでなく、コンデンサとコイルによってもインピーダンスが変化します。つまり抵抗・コンデンサ・コイルによって電流の流れ方をコントロールするということです。
図 インピーダンスの構成要素
そして交流回路ではインピーダンスによって電流波形の振幅だけでなく位相も変化します。各素子の位相への影響としては以下のとおりです。
- 抵抗:電圧波形に対して電流波形の位相は変化しない
- コンデンサ:電圧波形に対して電流波形の位相が90°進む
- コイル:電圧波形に対して電流波形の位相が90°遅れる
このように交流回路ではコンデンサやコイルによって電流波形の位相が変化するため、直流回路にように単純な大きさだけで電流値を計算することはできず、振幅と位相をもとにしたベクトルとして考える必要があります。
インピーダンスベクトルの考え方
インピーダンスベクトルは回路中の振幅(損失)に相当する抵抗Rと位相の変化量に相当するリアクタンスXによって表されます。そしてインピーダンスZの大きさはこの抵抗RとリアクタンスXのベクトル和によって表されます。
図 インピーダンスベクトル
このうち抵抗Rは直流回路における抵抗と同じです。一方リアクタンスXは位相に作用するコンデンサとコイルから求まります。
容量性リアクタンスと誘導性リアクタンス
コンデンサは電流波形の位相を進める、コイルは電流波形の位相を遅らせるというように、それぞれが反対の性質を持つため各リアクタンスを分けて計算します。ここでコンデンサによる位相の変化の大きさを容量性リアクタンスXC、コイルによる位相の変化の大きさを誘導性リアクタンスXLと呼びます。
図 容量性リアクタンスXCと誘導性リアクタンスXL
容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスはベクトルの方向が180°異なります。つまりこの2つのベクトルの差が回路全体のリアクタンスXになります。またこのリアクタンス X と抵抗 R の交点を指すベクトルがインピーダンス Zの大きさになります。なおインピーダンスベクトルを表すために虚数jが出てきていますが、ここでは位相に作用する要素を見分けるための記号という程度の認識で問題ありません。
インピーダンスの周波数特性
容量性リアクタンスXCと誘導性リアクタンスXLは角速度ωによって大きさが変化します。この角速度ωは電気回路においては周波数に相当し、ω=2πfで表されます。
図 角速度の概念
そして容量性リアクタンスXCは角速度ωが分母にあるため周波数に反比例する性質を持ちます。反対に誘導性リアクタンスXLは角速度ωが分子にあるため周波数に比例します。これを各素子のインピーダンスとして考えると、コンデンサは周波数が高くなるほどインピーダンスが低下する、反対にコイルは周波数が高くなるほどインピーダンスが高くなることを意味します。
図 各素子の周波数特性
このように周波数によってインピーダンスの大きさが変化することを周波数特性を持つと言います。また抵抗Rには角速度は影響しないため、抵抗は周波数によらず一定の値を示します。
直流での振る舞い
直流は時間経過によって振幅が変化しない、これを周波数として表すと0Hzということになります。そしてコンデンサとコイルは直流に対してどのように作用するかは、角速度ωに0を代入すれば求まります。
図 直流回路におけるコンデンサとコイルの振る舞い
コンデンサにおいては分母が0になり、インピーダンスの大きさは∞Ω(無限大)となります。これを電気回路として表現すると開放状態(OPEN、オープン)と捉えられ、直流電流は全く流れなくなります。
同じように角速度ωに0を代入すると、直流におけるコイルのインピーダンスは0Ωになります。つまりコイルは直流回路において短絡状態(SHORT、ショート)として扱われ、直流電流には何も作用しないということになります。
このようにコンデンサとコイルは直流回路において開放や短絡といった極端な性質を示すため、直流回路ではその存在を無視して良く、抵抗だけで回路の性質を考えることができます。
直列回路と並列回路の影響
直流回路で素子の配置によって合成抵抗が変化したように、交流回路でも素子の配置によって合成インピーダンスが変化します。
図 コンデンサの直列接続と並列接続
例えばコンデンサを直列に接続すると合成静電容量が低下するため、コンデンサの数が増えるほどインピーダンスが高くなります。一方で並列接続すると、合成静電容量は各コンデンサの静電容量の和となり、コンデンサの数が増えるほどインピーダンスが低くなります。
このコンデンサの直列接続・並列接続の振る舞いの違いは高周波回路設計やノイズ対策において重要な概念です。ただし合成インピーダンスは回路シミュレーションによって求めることがほとんどなので、計算式を解く能力は重要ではありません。
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