この記事ではSiglent製 SDS804X-HDを例にしてオシロスコープの基本仕様①について解説しています。

オシロスコープの基本仕様

Siglentのオシロスコープはコストパフォーマンスに優れることが特徴です。その中でもSDS800Xシリーズはエントリーモデルに位置付けられ、低価格ながら汎用的な用途であれば必要十分な性能・機能を有しています。

 

基本仕様の意味

オシロスコープの仕様は多岐にわたりますが、代表的な仕様としてはチャネル数、サンプリングレート、周波数帯域幅、垂直分解能、メモリ長があります。

 

チャネル数

チャネル数はオシロスコープの信号入力端子の数を示しています。チャネル数が多いほど同時に様々な箇所の波形を測定できます。チャネル数は2CH、または4CHのものが一般的です。近年は回路の高機能化の影響を受けてチャネル数も増加傾向にあり、8CH、または複数台組み合わせて10CH以上を同時に測定できるものも存在します。

        

図 8CHオシロスコープ(SIGLENT SDS6000Lシリーズ)



サンプリングレート

サンプリングレートはオシロスコープ内部のADコンバータが1秒間にAD変換を行う回数を示しています。サンプリングレートが高いほど、高速な信号を正確に描写できます。

        

図 サンプリングレートによる波形の描写の違い

なおサンプリングレートの半分となるナイキスト周波数よりも周波数が高い信号を入力すると、ナイキスト周波数を境にしてその差分だけ低い周波数へと変換されるエイリアシングが発生するため注意が必要です。

 

周波数帯域幅

オシロスコープの入力端子はローパス特性と持っています。つまりある周波数を境に感度が低下するということです。そしてオシロスコープの仕様で規定された周波数帯域は振幅が3dB低下する周波数のことです。正弦波であれば基本波の5倍、パルス波形の場合は基本波の10倍程度の周波数帯域が必要です。

 

垂直分解能

垂直分解能はオシロスコープの電圧の分解能を表すものです。垂直分解能が高いほど誤差が小さくなるため、正確な値が測定できます。8ビット(256)のオシロスコープが一般的ですが、最近は12ビット(4096階調)の高分解能オシロスコープが普及し始めています。ただし高分解能の特徴を最大限発揮するにはオシロスコープ自体のノイズレベルが低いことが大切です。

 

メモリ長

メモリ長は1回の測定で記録可能な測定ポイント数です。メモリ長が長いほど1回の測定で長時間の波形データを記録できます。

 

SDS804X-HDの仕様

SDS804X-HDの仕様は以下とおりです。

      

 

チャネル数

4CH

サンプリングレート

2GSa/s(シングルチャネルモード)

周波数帯域幅

70MHz

垂直分解能

12ビット

メモリ張

50Mpts(シングルチャネルモード)

 


特徴

SDS804X-HDの最も大きな特徴は、12ビットの垂直分解能を持つことです。従来のエントリーモデルは8ビットが一般的でしたが、SDS804X-HDは高分解能の12ビットADコンバータを搭載しているため信号解析機能が優れています。

 

仕様と波形の関係

ここからはSDS804X-HDで波形を測定し、仕様と波形の見え方の違いを検証してみます。なおチャネル数については物理的な入力端子の数なので、ここでは除外しています。

 

サンプリングレートと波形の見え方

SDS804X-HDでは「Acquire」の「Memory Mgmt」を「Fixed Smpl Rate」に変更すると任意のサンプリングレートに指定できます。ここでは10MHzの矩形波信号に対して「Sample Rate」を50MSa/s、100MSa/s、500MSa/s、、2GSa/sに変更して波形を比較してみます。

 

2GSa/s

        

信号の周波数に対してサンプリングレートが十分高いため、きれいな矩形波が測定できています。

 

 

500MSa/s

        

サンプリングレート500MSa/sも信号の周波数に対して50倍高いため、ほとんど矩形波を歪みなく測定できています。

 

 

100MSa/s

        

サンプリングレートが100MSa/sまで低下すると矩形波にリンギングが生じています。ただしこれは実際に波形が歪んでいるということではなく、サンプリングレートが低いために波形を正しく測定できていないということです。なおリンギングが生じる原因は、矩形波の高調波がエイリアシングによって別の周波数に変換されているためです。

 

 

50MSa/s

        

サンプリングレート50MSa/sまで低くなると矩形波の面影は消えて、三角波のような波形が表示されます。これは単純にサンプリングレートが低くなることでポイント数が少なくなって、時間的に飛び飛びの値が表示されているためです。このように測定対象の信号の周波数に対して、オシロスコープのサンプリングレートは十分高くないと正確な波形測定はできません。

 

 

サンプリングレートとエイリアシングの関係

先の100MSa/sの例で、矩形波の高調波がエイリアシングによって周波数が変換されたと説明しました。ここでは正弦波を用いて周波数が変換される様子を確認してみます。

信号発生器は10MHz~90MHzの正弦波を掃引させています。

        

 

2GSa/s

まずサンプリングレートを2GSa/sで測定してみます。

       

時間が経過するにつれて信号の周波数が高くなっていく様子が確認できます。これはまさに信号発生器の設定どおりです。

 

 

100MSa/s

つづいてサンプリングレートを100MSa/sに変更します。

       

 

すると先ほどと違って50MHzを境に周波数の変化が上昇から減少に転じていることが確認できます。これは100MSa/sのナイキスト周波数が50MHzであるためです。つまり50MHzを境にエイリアシングが発生し60MHzが40MHzに、80MHzが20MHzに変換されているということです。

 

このようにオシロスコープのサンプリングレートに対して周波数の高い信号を測定する場合は、エイリアシングによって間違った波形が表示される可能性があるため、アンチエイリアシングフィルタ(ローパスフィルタ)を使用するなどの処置が必要になります。



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