この記事ではSiglent製 SDS804X-HDを例にしてオシロスコープの基本仕様②について解説しています。

周波数帯域と波形の見え方

オシロスコープの周波数帯域も波形の見え方に大きな影響を与えます。これは特に矩形波のような高調波を含む信号の場合に顕著です。ここでは50MHzの矩形波を入力して、周波数帯域による波形の違いを確認します。

 

周波数帯域70MHz(SDS804X-HD)

SDS804X-HDの周波数帯域は70MHzです。

   

ここで周波数帯域の影響が顕著に出るのが矩形波の立ち上がり時間tr(10-90%Rise)と立ち下がり時間tf(90-10%Fall)です。SDS804X-HDでは立ち上がり時間trと立ち下がり時間tfがいずれも約3.8nsとなっています。

 

周波数帯域350MHz

同じ信号を周波数帯域が350MHzのオシロスコープで測定しています。

   

すると立ち上がり時間(RiseTime)と立ち下がり時間(FallTime)がいずれも800psとなっています。一般的に矩形波を正確に測定するには信号の周波数に対して10倍の周波数帯域が必要とされています。そのためこのオシロスコープでも十分な周波数帯域とはいえませんが、少なくとも高速な信号の波形はオシロスコープの周波数帯域によって大きく変化するということがわかります。

 

ちなみにSDS800X-HDシリーズには周波数帯域が100MHzと200MHzのモデルも存在します。これらモデルの必要性は測定対象の信号の性質をもとに検討することが大切です。

 

メモリ長と波形の見え方

メモリ長は長時間の測定において波形に影響を与えます。ここでは5kHzのバースト信号の測定を例に、メモリ長の設定による波形の違いについて確認します。

 

50Mpts

まずはSDS804X-HDの最大ポイント数の50Mptsで測定してみます。

 

   

横軸のスケールが10ms/divで波形全体を捉えることができています。この測定データの時間スケールを拡大していきます。

 

 

   

横軸を5us/divまで拡大するとバーストを構成するパルス信号の詳細が確認できます。このパルス信号は立ち上がり時間が8.4nsで出力されていますが、10-90%Riseが9.2nsと正確に波形を捉えられています。このようにメモリ長が長いほど、長時間の測定においても正確な波形を記録できます。

 

1Mpts

メモリ長を1Mptsまで少なくすると、波形を拡大したときにリンギングが発生している様子が確認できます。これはポイント数が少なくなることで波形の補間(Interpolation)がうまく機能しなくなるためです。このことからメモリ長が小さいオシロスコープでは波形の時間分解能が犠牲になることがわかります。

     

 

   

 

10kpts

SDS804X-HDのメモリ長の最小設定10kptsでも同様の波形を測定しました。すると10ms/divの時点で既にトリガーのかかりが悪くなり、バースト信号の検出精度が低くなります。ここでは数回の測定の後に、正しくバースト信号が捕捉できた画像を示しています。

     

また時間スケールを拡大すると5us/sでは3ポイント分のデータしか保持していないため補間に使用しているSinc関数の波形が表示される結果となっています。

 

   

ここまで波形がなまってしまうとパルスの存在はわかるものの、バースト信号を解析することは不可能です。このようにメモリ長が小さいオシロスコープを使用すると測定可能な波形が限定されてしまうことは理解しておくべきです。

 

垂直分解能と波形の見え方

SDS804X-HDの大きな特徴の1つが12ビットの垂直分解能を持つことです。ここでは信号に重畳するノイズ解析を例に、8ビットオシロスコープと12ビットオシロスコープの波形の見え方の違いを比較します。

 

SDS804X-HD(12ビットオシロスコープ)

信号(8Vpp@10kHz)に対してノイズ(100mVpp@1MHz)を重畳させています。波形全体が画面に収まるように垂直分解能を調整して、波形をホールドしました。

   

するとわずかにノイズが重畳している様子が確認できます。この状態から波形を拡大していきます。

 

   

すると信号に重畳するノイズの様子が波形から明確にわかります。このように振幅の大きい信号の中に存在する微小なノイズも、12ビットの垂直分解能を有することで正確に見つけ出すことが可能です。

 

8ビットオシロスコープ

次に8ビットオシロスコープでも同じ条件で測定してみます。まずは波形全体です。

     

波形全体で見ると12ビットオシロスコープと遜色なく、信号にノイズがのっている様子が確認できます。ここから波形を拡大してみます。

 

   

するとノイズの存在は確認できるものの、垂直分解能が足りないために量子化誤差の影響が目立っています。ちなみに垂直分解能を1V/divで波形をホールドしており、8ビットオシロスコープの1LSBは約31mVです。一方でSDS804X-HDは4096階調あるため1LSBは約2mVとなっており、波形の再現度合いに大きな差があることがわかります。

 

ノイズフロアの比較

12ビットオシロスコープの高分解能のメリットを活かすには、オシロスコープ自体のノイズレベルが低くなければなりません。そこで8ビットオシロスコープとSDS804X-HDを50Ω終端したときの電圧、つまりノイズフロアを測定してみます。

     

 

グラフで比較するとSDS804X-HDのほうが全体的にノイズレベルが低く、実際のノイズレベルでも約300uVppと非常に低ノイズです。また垂直分解能が1V/div のとき1LSBが約2mVだったので、先ほどの条件ではオシロスコープ本体のノイズの影響を無視して波形を測定できていることがわかります。

 

まとめ

今回はSDS804X-HDを題材にオシロスコープの基本仕様について解説しました。どのような計測器にも当てはまりますが、ほとんどのケースで性能が高いものほど正確な値を測定できます。つまり買ったあとに機能が足りなくなるリスクを考えると、予算の許す範囲で高性能なものを入手したほうが良いというわけです。

 

ただし予算は無限にあるわけではありません。そのため測定対象となる信号の性質を見極めて、どの性能を重視すべきかを考えることが大切です。オシロスコープに関しては今回の検証内容から参考にできることもきっと多いはずです。

 

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