エンジャーさんよりこの記事ではスペクトラムアナライザと近傍界プローブを使用した実践的なノイズ対策のテクニックについて解説しています。

 

ノイズとは

ノイズとは処理対象となる情報以外の不要な情報のことです。電子機器では処理対象となる情報のことを「信号」、不要な情報のことをノイズと呼びます。

 

電子機器の信号とノイズの関係

ここではテレビの放送波を例に信号とノイズの関係について考えてみます。テレビの放送波は、テレビにとっては無くてはならない情報であるため、必要な「信号」として捉えられます。一方で、テレビの周辺で動作している電子機器(エアコン、電子レンジ、冷蔵庫など)にとっては、テレビの放送波は必要な信号ではありません。つまり、これらの電子機器にとっては「ノイズ」として捉えられるということです。このように信号とノイズはそれぞれの立場によって捉え方が違い、それが相互に関連し合うため、ノイズ問題では「一方を立てればもう一方が立たず」といったトレード・オフの関係になることが多いです。

 

ノイズの分類

電子機器で発生するノイズは発生源や状況に応じて、様々な種類に分類されます。それぞれのノイズは厳密に定義されたものというよりは、慣習的に呼ばれていることが多いですが、このようにノイズを分類することでノイズ対策の手段が明確になります。

        

図 ノイズの分類

 

ノイズ対策の考え方

電子機器はノイズレベルが規格(VCCI、FCCなど)の限度値以下とする必要があります。。その中でノイズ対策を効率良く進めるためには、できるだけ正確にノイズ発生源を見つけ出すことが大切です。

       

図 ノイズ対策の概念図

 

ノイズ対策では「ノイズ発生源」、「伝播経路」、「ノイズの影響を受ける機器」の3つの要素に分けて考えます。ここでノイズ発生源をスムーズに特定できれば、ノイズ対策にかかる工数を大幅に削減できます。

ノイズ発生源となるもの

電子機器内部でノイズ発生源になりやすいのは半導体IC、トランジスタ、FET、水晶発振器などのスイッチング素子です。特に高速動作するデバイスは周波数帯域が広いため、様々なノイズトラブルを引き起こしやすいです。また電力容量の大きいデバイスも取り扱うエネルギーが大きいため、他の電子機器に対して妨害を与えやすい傾向にあります。

泥臭くPDCAサイクルを回す

ノイズ対策は難しい。そう考えてしまいがちですが、実際は特別視する必要はありません。

        

図 ノイズ対策のPDCAサイクル

 

一般的にPDCAサイクルにおけるPは「計画」とされていますが、ノイズ対策においては対象がコントロールできるものではないため、Pでノイズが発生する原因を調査します。次にDでは、Pの原因調査結果に基づいてノイズ対策を試してみます。Cでは、Dで行った対策がどれほどの効果があったのかを数値データとして記録して、ノイズ対策効果の有無を確認します。最後のAでは、ノイズ対策効果の有無や大小をもとに原因調査結果の妥当性検証を行い、必要に応じて再対策や次の仮説検証へと移っていきます。このようにノイズ対策のことを難しく考えすぎずに、その他の実験と同じような心持ちで、1つずつ仮説検証を行っていくことが大切になります。

 

ノイズ発生源の見つけ方

ノイズ発生源を特定するために必要となるのが「スペクトラムアナライザ」と「近傍界プローブ」です。

        

図 スペクトラムアナライザと近傍界プローブ

 

スペクトラムアナライザは、周波数領域でレベルを測定する計測器です。近傍界プローブは、プローブ近傍の電界や磁界を検出できる一種のアンテナです。アンテナとしての感度が低いがゆえに空間分解能が高く、ノイズ発生源を見つけ出すことに適しています。またプローブは電界用と磁界用の2つのタイプがあります。電界プローブは近傍の電圧の変化をもとに、電界を検出します。磁界プローブはループ部分を鎖交する磁束をもとに磁界を検出します。

実験室での実施方法

ノイズ対策は電波暗室で行うことが一般的ですが、実験室で実施する場合は短縮ホイップアンテナのような小型のアンテナをEUTと1mくらい離して配置し、放射ノイズを測定します。スペクトラムアナライザの設定は問題となる周波数を中心周波数に設定し、ノイズの種類や強度に合わせスパン、RBW、ATTなどを変更します。表示されているノイズがEUTからノイズが放射されているのかを確認するには、EUTの電源をON・OFFするとわかりやすいです。

近傍界プローブによるノイズ発生源の調査

周波数が特定できれば、近傍界プローブを使ってノイズ発生源を調査します。まずはループ径の大きい磁界プローブを使って、ノイズ発生源のおおまかな位置を調査します。

        

図 ループ径の大きい磁界プローブを使ってノイズ発生源の位置を調査している様子

 

磁界プローブは先端の向きによってレベルが変化します。この理由はループアンテナの向きによってループを鎖交する磁束の量が変化するためです。この性質をうまく使えれば、ノイズが流れている電流の向きも見極めることができます。ループ径の大きいプローブでおおよそのノイズ源が特定できれば、ループ径の小さいプローブに変更してノイズ源の特定します

        

図 ループ径の小さい磁界プローブでノイズ発生源の詳細位置を調査している様子

 

ここではプリント基板中央のFPGA周辺でノイズレベルが高くなっており、細かく調査するとダンピング抵抗「R16」、「R17」、「R18」が接続されている伝送線路のノイズレベルが最も高いことがわかりました。

 

ノイズ対策の実施

ノイズ対策の手段として最も簡単なのはダンピング抵抗の抵抗値の値を大きくすることです。また穂の他の対策としては終端抵抗を追加したり、スペクトラム拡散機能を追加したりすることなどが考えられます。どのノイズ対策が最も効果的かは試してみないとわかりませんが、これらのノイズ対策のアイデアはノイズ発生源を特定できてこそ生まれてくるものです。そのためノイズ対策の実務においては、スペクトラムアナライザと近傍界プローブを組み合わせたノイズ発生源の調査が必要不可欠と言えます。


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