この記事では集中定数回路と分布定数回路の違いや伝送線路の特性インピーダンスについて解説しています。 (作者:エンジャー)
低周波と高周波
電気回路は取り扱う電気信号の周波数によって低周波と高周波に分類されます。
図1 周波数と波長の関係
低周波と高周波の境界となる周波数は一律に規定されるものではありませんが、電気信号の波長 λに対して伝送線路の長さが λ/20以下の場合は低周波とみなせます。
低周波信号の特徴
図2 低周波信号の位相の変化
λ/20の根拠は伝送線路上の位相の変化が小さいためです。伝送線路の長さがλ/20以下であれば位相の変化が18°以下に抑えられます。つまり伝送線路上で振幅がほとんど変化しないということです。このことから低周波信号は、伝送線路を単純な導体として捉えることができます。
高周波信号の特徴
一方で信号の周波数が高くなって波長λが短くなると、伝送線路上の位相の変化が大きくなり、それによって伝送線路上の位置によって振幅が変化するようになります。例えば伝送線路の長さがλ/2だとすると、伝送線路上に振幅の波の腹と節が存在するということです。このように伝送線路上で振幅の変化が大きい場合、伝送線路の特性を一律に規定することはできません。
集中定数回路と分布定数回路
低周波と高周波の考え方の違いは、集中定数回路と分布定数回路の違いとして理解することができます。
集中定数回路とは
図3 集中定数回路の例
集中定数回路は一般的な回路図のように、各電子部品を独立した回路素子として取り扱う回路です。先の低周波信号の特徴でも述べたように、素子間を接続する導体の損失、位相の変化、遅延などを考慮する必要がないため、回路の挙動を理解することは比較的簡単です。基本的な回路理論の理解にも適しており、電気回路・アナログ回路・デジタル回路など応用範囲が非常に広範なことが特徴です。一方で高周波信号に対しては位相の変化を適切に表現できないため、解析可能な周波数としては10MHzあたりが上限となります。
分布定数回路とは
図4 分布定数回路における伝送線路
分布定数回路は伝送線路上で位相が変化することを前提に、伝送線路をコイルとコンデンサが連続的に分布した回路として表します。コイルとコンデンサの定数は伝送線路の形状をもとに算出されます。コイルとコンデンサはそれぞれ位相を遅らせたり、進ませたりする性質を持つため、分布定数回路では伝送線路上の位相の変化を適切に表現できます。また伝送線路の損失を表現する場合には、導電損や誘電損に相当する抵抗を直並列に接続した回路で表現することもできます。
図5 損失を加味した伝送線路の表し方
分布定数回路では簡単な回路構成でも回路表現が複雑になるため、適用範囲は比較的高い周波数に限定されます。
特性インピーダンスとは
分布定数回路における電気信号の振幅と位相は、伝送線路の特性インピーダンスによって規定されます。特性インピーダンスは伝送線路に掛かる電圧と電流の比をとったもので、コイルのインダクタンスとコンデンサのキャパシタンス(静電容量)の比から求まります。
図6 特性インピーダンスの定義
集中定数回路のインピーダンスのように回路に流れる電流の大きさを規定するものではありませんが、伝送線路上の電気信号の振る舞いには大きな影響を与えます。
特性インピーダンスの役割
図7 分布定数回路における電流の流れ方
無損失の伝送線路に電圧源を接続したとします。すると伝送線路には電圧源に近い箇所から順に電圧が掛かり、コイルとコンデンサのインピーダンスに応じて電流が流れていきます。このとき伝送線路に流れる電流の振幅と位相は負荷のインピーダンスとは関係なく、分布定数回路で表されたコイルとコンデンサの定数によって決まります。つまり伝送線路に流れる電流の振幅と位相は、特性インピーダンスによって決まるということです。
空間の特性インピーダンス
図8 空間の特性インピーダンス
プリント基板の配線パターンはコイルとコンデンサの定数の比によって特性インピーダンスが決まりますが、空間を伝送線路とする電磁波の場合は電界と磁界の比によって特性インピーダンスが規定されます。配線パターンと空間の特性インピーダンスの関係性については、インダクタンスを透磁率μ、キャパシタンスを誘電率εと置き換えると理解しやすいです。
図9 真空の特性インピーダンス
また上式に真空の透磁率μ0(4π×10-7 )と真空の誘電率ε0 (8.854×10-12)を代入すると、真空(空気)の特性インピーダンス(約 377Ω)が求まります。
特性インピーダンスと信号の反射
分布定数回路ではインピーダンスが変化する箇所で信号が増幅したり、減衰したりします。この理由は反射係数が大きくなるためです。
反射係数とは
反射係数は高周波回路で重要とされる概念で、信号の反射の程度を表す係数です。信号の反射が大きいほど値が大きくなり、Γ=1のときが全反射、Γ=0のときが反射なしの状態を表します。伝送線路の特性インピーダンスがZ0 、負荷のインピーダンスがZL とすると、反射係数の大きさは両者の和分の差として求まります。
図10 反射係数の求め方
また信号の反射はインピーダンスの種類によらず発生するため、例えば伝送線路の形状が変化して特性インピーダンスが変化する箇所でも反射係数は大きくなります。
インピーダンスマッチング
高周波信号を歪みなく伝送したい場合には、伝送線路の特性インピーダンスと負荷のインピーダンスを一致させる必要があります。この2つのインピーダンスを一致させることをインピーダンス整合やインピーダンスマッチングと言います。分布定数回路ではLCフィルタ、ダンピング抵抗、終端抵抗など様々な手段を用いて、インピーダンスマッチングが行われます。インピーダンスマッチングの考え方や具体的な手法については別の記事で解説します。
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