この記事では、実測データを用いて寄生成分を加味したシミュレーション回路の妥当性について解説します。
寄生成分の影響
高周波用 LC フィルタの設計で課題になるのは、部品の寄生成分の影響です。そのため、設計ツールで生成した回路をそのまま製作しても、実物の減衰特性はシミュレーションどおりにはなりません。
ここでは、設計ツールで生成した BPF をもとに、定数を実部品で入手できる E12 系列の値へ置き換えた π 型・バタワース特性・3 次 BPF を題材にします。
- 中心周波数:100MHz
- 通過帯域幅:60MHz(70〜130MHz)
- 入出力インピーダンス:50Ω
この回路を理想素子のままシミュレーションすると、通過域には損失が生じず、減衰特性は設計値そのものになります。しかし実物のコイルやコンデンサには、理想素子に無い寄生成分が存在します。
寄生成分の捉え方
この寄生成分は等価回路として表せます。ただし高周波では考慮すべきパラメータが非常に多くなり、パラメータが増えるほど難易度が高くなります。
そのため等価回路は、対応する周波数帯に応じて使い分けます。
このうち最も汎用的なのは 3 素子モデルです。3 素子モデルでは、コイルは直流抵抗と線間容量を、コンデンサは ESR(等価直列抵抗)と ESL(等価直列インダクタンス)を理想素子へ加えた等価回路となり、10MHz 程度までの周波数に対応します。
そして 3 素子モデルの適用範囲を超える周波数では、素子数を増やした多素子モデルを使用します(図1)。

図1 多素子等価回路モデルの例
この多素子モデルは、部品メーカーから提供されていることが一般的です。また、PDF の等価回路図として公開されているものもあれば、SPICE モデルとして提供されているものもあります。
実践的なシミュレーション方法
寄生成分を織り込んでシミュレーションする手段は 2 つあります。
- SPICE モデル:部品メーカーが提供する等価回路のシミュレーションモデル。時間応答も扱える
- タッチストーンファイル:ネットワークアナライザで測定した S パラメータが格納されているファイル。実測データに基づく
SPICE モデルの取り込み
uSimmics で SPICE モデルを取り扱うには、ファイルの拡張子を cir とする必要があります。そのうえで Project → Import Data でファイルを指定して Convert すると、SPICE モデルが回路図ファイルへ変換されます。
変換直後は素子が等間隔に並びます。この状態では各素子の接続関係がラベルに記載されているだけで等価回路の全体像は分かりづらいものの、このままでも等価回路として機能します。
SPICE モデルを LC フィルタ回路へ読み込むには、サブサーキット素子(SUB)を使用します。ここでは 3 次 BPF の回路素子を SUB へ置き換えてシミュレーションします(図2)。

図2 SPICE モデルを織り込んだ 3 次 BPF
理想素子と比較すると、通過域に 1dB 程度の損失が発生し、カットオフ周波数の減衰量も 1dB 程度増加します。この損失は等価回路内で直列接続された抵抗による影響で、周波数特性が大幅に変化しているわけではないため、特に問題はありません。
タッチストーンファイルの活用
高周波回路の設計では、SPICE モデルよりもタッチストーンファイルを使用することが多くなります。このファイルを使うと実測データに基づいて設計でき、寄生成分の情報も含まれているため、高い精度でシミュレーションできます。
タッチストーンファイルは部品メーカーの Web サイトからダウンロードできます。そして uSimmics へ読み込むには、Sparameter file 素子(SnP)を使用します。
ここでも 3 次 BPF の回路素子をタッチストーンファイルへ置き換えてシミュレーションします。理想素子・SPICE モデル・タッチストーンファイルの 3 つの減衰特性を比べると、低周波側のカットオフ周波数あたりで、タッチストーンファイルは SPICE モデルと異なる減衰特性を示します(図3)。

図3 理想素子/SPICE モデル/タッチストーンファイルの減衰特性の比較
タッチストーンファイルはあくまでも実物をベースとしたデータである一方、SPICE モデルは等価回路による表現なので、どこまでいっても実物の特性とは一致しません。そのため、実測由来のタッチストーンファイルを優先した方が実測との整合性は保ちやすいです。
ただしタッチストーンファイルには問題点もあります。周波数特性は小信号に対する応答ですが、時間応答のように振幅応答は含まれていないため、トランジェント解析での誤差が大きくなりやすいです。
つまり、用途に応じて適切なモデルを使い分けることが大切ということです。
実測データとの比較
ここからは、タッチストーンファイルによるシミュレーションの精度を実測と比較して確かめます。E12 系列の部品で 3 次 BPF を製作し、定数が同じで許容差が異なる 2 種類のコイルを準備しました。
磁性コイルは透磁率のばらつきが大きく、許容差は ±20% です。一方で空芯コイルの許容差は ±2% です。この 2 種類を比べて、部品の種類による減衰特性の違いを確認します。
この LC フィルタ回路は 50Ω 系で設計しているため、測定にはネットワークアナライザを使用します。測定範囲は 10MHz〜1GHz とし、通過域周辺は 50〜200MHz の範囲で拡大します。
磁性コイル基板による比較
磁性コイル基板では、周波数帯域全体で見ると減衰特性の傾向は概ね一致します(図4)。ただし通過域周辺を拡大すると、高周波側のカットオフ周波数に 10MHz 程度の差があります(図5)。

図4 磁性コイル基板の S21 の実測とシミュレーションの比較
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図5 磁性コイル基板の S21 の実測とシミュレーションの比較(通過域周辺)
この差は、部品の許容差の影響を受けたものです。さらに実測に使用した部品の型式がシミュレーションと同じでないことも、この許容差の影響に含まれます。
空芯コイル基板による比較
空芯コイル基板では、周波数帯域全体で減衰特性の傾向が一致しているだけでなく、通過域周辺でも実測とシミュレーションにほとんど差がありません(図6・図7)。100MHz の減衰量は実測・シミュレーションともに -0.949dB で、読み取れる桁の範囲では一致しています。

図6 空芯コイル基板の S21 の実測とシミュレーションの比較
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図7 空芯コイル基板の S21 の実測とシミュレーションの比較(通過域周辺)
許容差がカットオフ周波数に与える影響は、部品の定数と許容差を指定したモンテカルロシミュレーションで見積もれます。この見積もりでは、空芯コイル ±2% の条件でのカットオフ周波数の変動幅は最大 6MHz 程度でした。
そして実測とシミュレーションのカットオフ周波数の差は、この変動幅と比べて妥当な範囲に収まっています。
このように 100MHz 程度の周波数帯であれば、実部品の条件を織り込んだシミュレーションは実測とよく一致し、残る差も部品の許容差で説明できます。
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