平坦バンド電圧(Flat Band Voltage, Vfb)とは
~MOS構造の基準電位を示す、界面特性評価の鍵~
■ 定義
**平坦バンド電圧(Flat Band Voltage, Vfb)**とは、MOS構造において半導体内のエネルギーバンド(価電子帯・伝導帯)がバンドベンディングせず、完全に平坦になるときのゲート印加電圧を指します。
この状態では、空乏層や反転層が形成されておらず、半導体のバルク状態が中立に保たれています。
■ 物理的意味と重要性
MOSキャパシタやMOSFETの構造において、ゲート酸化膜・半導体界面には以下のような**界面電荷(固定電荷、トラップなど)**が存在することがあります。
そのため、ゲート電圧がゼロであっても、半導体内のバンドが曲がってしまうのが一般的です。
**平坦バンド電圧(Vfb)**を測定・把握することで:
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界面や酸化膜中に存在する電荷の量や極性
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絶縁膜と基板材料のワークファンクション差
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デバイス特性の安定性や変動要因
などを定量的に評価できます。
■ 数式と理論背景
Vfb=ϕms−QoxCoxV_{fb} = \phi_{ms} - \frac{Q_{ox}}{C_{ox}}
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ϕms\phi_{ms}:金属–半導体間のワークファンクション差
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QoxQ_{ox}:酸化膜中の電荷量(固定電荷など)
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CoxC_{ox}:酸化膜容量
この式により、Vfbのずれが材料選定やプロセス異常に起因することがわかります。
■ C–V測定における平坦バンド電圧の求め方
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MOSキャパシタのC–V曲線において、空乏容量から最大容量へ移行する途中の特定点(曲率変化点)を理論モデルに基づいて補正・解析することで抽出されます。
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よく用いられる手法には以下があります:
手法 | 内容 |
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✅ 微分法 | dC/dVdC/dV や d2C/dV2d^2C/dV^2 のゼロ点を探す |
✅ Mott-Schottkyプロット法 | 1/C21/C^2 vs Vの直線外挿から求める |
✅ 理論フィッティング | 測定データを理論曲線にフィットさせて抽出 |
■ 応用と用途
分野 | 用途 |
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✅ MOSFET設計 | 閾値電圧(Vth)の設計と整合性チェック |
✅ プロセスモニタリング | 酸化膜形成・アニール後の固定電荷の変化検出 |
✅ 信頼性試験 | バイアスストレスによる界面状態の変化追跡 |
✅ 材料評価 | 酸化膜材料・界面工程の適合性検証 |
■ 測定上の注意点
項目 | 内容 |
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✅ 周波数依存性 | 高周波と低周波で測定結果に差異が生じる場合あり |
✅ 界面トラップの影響 | ゆっくりした応答が解析精度に影響することがある |
✅ モデル選定の適切性 | n型・p型、MOS構造のサイズに応じた補正が必要 |
■ まとめ
項目 | 内容 |
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定義 | MOS構造において、半導体内のバンドが平坦になるときのゲート電圧 |
計算式 | Vfb=ϕms−Qox/CoxV_{fb} = \phi_{ms} - Q_{ox}/C_{ox} |
意味 | 酸化膜中の電荷や界面状態の指標となる電位 |
測定方法 | C–V曲線から微分法・Mott-Schottky法などで抽出 |
応用分野 | MOSFET開発、プロセス評価、信頼性試験、材料評価など |
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