SoitecのRF-SOI基板、特にRFeSI(RF enhanced Signal Integrity)における**「トラップリッチ層(Trap-Rich Layer)」**は、高調波(ハーモニクス)を物理的にねじ伏せるための革新的なアプローチです。
なぜ「層」を追加するだけで高調波が抑えられるのか、そのメカニズムと効果を解説します。
1. 高調波(ハーモニクス)が発生する原因
通常のシリコン基板(Bulk-Si)や、トラップリッチ層のない初期のSOI基板では、絶縁層(BOX)の直下に**「寄生表面伝導層(PSC: Parasitic Surface Conduction)」**という、電気が流れやすい薄い層が形成されてしまいます。
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非線形な挙動: このPSC層が、RF信号の電圧変化に応じて電荷を蓄えたり放出したりする「非線形なコンデンサ」のように振る舞います。
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歪みの発生: パワーアンプから強い信号が流れると、このPSC層が信号を歪ませ、本来の周波数(例:6GHz)の整数倍の周波数である**高調波(12GHz, 18GHz...)**を発生させてしまいます。
2. トラップリッチ層による抑制メカニズム
Soitecの技術では、BOX層のすぐ下に、シリコンの結晶構造を意図的に崩した「多結晶シリコン層」を配置します。これがトラップリッチ層です。
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電荷の捕獲(トラップ): この層には膨大な数の「欠陥(トラップサイト)」が存在します。PSC層を形成しようとする自由電子や正孔を、これらのトラップが強力に捕まえ、動けなくします。
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基板の高抵抗化を維持: 電荷が動けなくなることで、基板は高周波信号に対して「常に高い抵抗値」を維持できるようになります。
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非線形性の解消: 電荷の動きが止まる(リニアになる)ことで、基板由来の歪みが消え、結果として高調波の発生が劇的に抑えられます。
3. 具体的な抑制効果とWi-Fi 7への恩恵
トラップリッチ層を採用した基板(RFeSI)では、以下のような具体的な数値的・性能的メリットが得られます。
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2次・3次高調波の劇的な低減:
従来の基板と比較して、高調波(Harmonics)のレベルを 20dB〜30dB以上 改善できます。これにより、Wi-Fi信号が他の通信(Bluetoothや5G/4G)に干渉するリスクを排除します。
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IMD3(3次相互変調歪み)の改善:
4096-QAMのような多値変調では、隣接する信号同士が干渉して歪むIMD3の抑制が不可欠です。トラップリッチ層は基板を「静か」に保つため、EVM性能を極限まで引き出すことが可能です。
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受信感度の向上:
送信時の高調波が受信回路(LNA)側に回り込む「自己干渉(Self-Interference)」を防げるため、微弱なWi-Fi 7信号もしっかりと拾えるようになります。
まとめ:高調波抑制がもたらすもの
| 特性 | トラップリッチ層なし | トラップリッチ層あり (RFeSI) |
| 基板の状態 | 電荷が動き回り、歪みを生む | 電荷が固定され、常に安定 |
| 高調波(2f/3f) | 大きい(フィルタによる除去が必要) | 極めて小さい(フィルタを簡略化可能) |
| QAM変調への影響 | 信号が滲み、エラーレートが上がる | 4096-QAMを正確に維持可能 |
| 部品コスト | 高価な外付けフィルタが必要 | FEM内部で完結、トータルコスト低減 |
この技術により、スマートフォンのような極めて狭い基板内に、多数のアンテナと通信回路を詰め込んでも、お互いの電波が干渉せずにWi-Fi 7のフルスピードを出せるようになっています。
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