エレクトロマイグレーション(EM)の測定方法は、主に加速試験とそれに伴う抵抗値のモニタリングが中心となります。これは、実際の使用環境下ではEMによる劣化が非常にゆっくりと進行するため、短時間で評価を行うための手法です。
以下に、一般的なエレクトロマイグレーション測定方法の概要をまとめます。
1. 加速試験
EMは、金属配線に高電流密度を長時間流すことで生じる原子移動現象です。この現象を短時間で再現するために、以下の条件で加速試験を行います。
-
高温環境: 温度が高いほど原子の移動速度が速くなるため、オーブンや恒温恒湿槽などを用いて、実際の使用温度よりも高い温度で試験を行います。
-
高電流密度: 配線に流れる電流密度が高いほど、電子風による原子への力が強くなるため、配線が劣化するまでの時間が短縮されます。通常、実際のLSI配線では、以上の電流密度で劣化が観察され始めます。
これらの加速条件で試験を行い、配線の劣化を加速させて寿命を評価します。
2. 抵抗値のモニタリング
EMの進行は、配線中の原子が移動し、ボイド(空隙)が形成されることで抵抗値が上昇します。最終的には配線が断線し、抵抗値が無限大になります。このため、試験中は配線の電気抵抗の変化をリアルタイムで測定し、抵抗値が一定のしきい値を超えた時点を故障と判定します。
-
故障判定基準: 初期抵抗値から5%~20%の上昇などを故障と見なすことが一般的です。
3. ブラックの法則(Black's Law)
加速試験で得られたデータは、ブラックの法則と呼ばれる経験式を用いて、実際の使用条件下での寿命を予測するために使用されます。
ブラックの法則は以下の式で表されます。
![]() |
-
(Mean Time To Failure):平均故障時間
-
:比例定数(材料や配線の構造に依存)
-
:電流密度
-
:電流密度指数
-
:活性化エネルギー
-
:ボルツマン定数
-
:絶対温度
この式から、いくつかの異なる温度や電流密度で試験を行い、得られたMTTFデータから、やなどのパラメータを算出し、実際の使用環境におけるMTTFを外挿して予測します。
4. その他の測定・解析方法
抵抗値のモニタリング以外にも、以下の方法が併用されることがあります。
-
顕微鏡観察: 試験後の配線を顕微鏡(SEMなど)で観察し、ボイドやヒルクライム(原子が堆積した部分)の形成を確認します。
-
低周波ノイズ測定: 配線に流れる微小な電流のゆらぎ(ノイズ)を測定することで、非破壊かつ迅速にEMの兆候を捉える方法が研究されています。
-
シミュレーション: マルチフィジックス解析や分子動力学シミュレーションを用いて、電流密度、熱分布、原子拡散の影響を包括的に解析し、EMによる劣化を予測します。
5. イオンマイグレーションとの違い
エレクトロマイグレーションと類似した現象にイオンマイグレーションがあります。両者は混同されがちですが、異なる現象であり、測定方法も異なります。
-
エレクトロマイグレーション (Electromigration, EM):
-
対象: LSI内部の微細な金属配線。
-
現象: 高電流密度の影響で、金属原子が移動する物理現象。
-
測定方法: 高温・高電流密度の加速試験と、抵抗値モニタリング。
-
-
イオンマイグレーション (Electrochemical Migration, ECM):
-
対象: プリント基板など、導体回路間の絶縁部分。
-
現象: 水分存在下で電極金属がイオン化して移動・析出する化学電気現象。
-
測定方法: 高温高湿環境下での通電試験と、絶縁抵抗の測定。
-
エレクトロマイグレーションの測定は、半導体デバイスの信頼性評価において非常に重要な試験の一つであり、専用の評価システムも市販されています。