
電子回路におけるコモン・モード (Common Mode: CM) とディファレンシャル・モード (Differential Mode: DM) は、信号やノイズの伝わり方を区別する重要な概念です。主に、2つの導体(信号線や電源線)に流れる電流の向きによって分類されます。
ディファレンシャル・モード (DM)
ディファレンシャル・モードは、正常な信号伝送のモードです。
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電流の向き: 2つの導体間で電流が互いに逆方向に流れます。
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特徴:
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信号電流は、一方の導体を「往路」、もう一方の導体を「帰路」として流れます。
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このモードでは、信号そのものが伝達されます。
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往路と帰路の電流が逆方向のため、発生する磁界が互いに打ち消し合い、放射ノイズを低減する効果があります。
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ディファレンシャル・モードのノイズは「ノーマル・モード・ノイズ」とも呼ばれます。これは、電源ライン間など、信号の経路と同じように発生するノイズです。
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対策: ディファレンシャル・モードのノイズ対策には、Xコンデンサやノーマル・モード・チョークコイルなどが使用されます。
コモン・モード (CM)
コモン・モードは、主にノイズとして扱われるモードです。
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電流の向き: 2つの導体間で電流が同じ方向に流れます。
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特徴:
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2本の導体から流れ出した電流が、グランド(アース)や筐体を帰路として戻ってくることで形成されます。
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同じ方向に流れるため、磁界が打ち消し合わず、大きなループアンテナを形成して電磁波を放射しやすくなります。
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このため、コモン・モード・ノイズは、機器の電磁干渉 (EMI) の主な原因となります。
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コモン・モードの電圧は、回路の基準となるグランドの電位を変動させるため、回路動作に悪影響を及ぼす可能性があります。
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対策: コモン・モードのノイズ対策には、コモン・モード・チョークコイルやYコンデンサなどが使用されます。コモン・モード・チョークコイルは、ディファレンシャル・モードの信号には影響を与えずに、コモン・モードのノイズのみを効果的に除去できます。
まとめ
ディファレンシャル・モード (DM) | コモン・モード (CM) | |
電流の向き | 逆方向 | 同一方向 |
主な用途 | 正常な信号伝送(差動信号) | ノイズ(不要な信号) |
ノイズの種類 | ノーマル・モード・ノイズ | コモン・モード・ノイズ |
電流の経路 | 2つの導体間 | 導体とグランド(アース)間 |
主な対策部品 | Xコンデンサ、ノーマル・モード・チョークコイル | コモン・モード・チョークコイル、Yコンデンサ |
この2つのモードを理解することは、電子機器のノイズ対策や電磁両立性 (EMC) 設計において非常に重要です。