
ソフトウェア無線機(SDR: Software Defined Radio)は、ソフトウェアによって無線機の機能の大部分を定義し、変更できる無線通信システムです。従来の無線機がハードウェアの回路で特定の通信方式に固定されているのに対し、SDRはDSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)といったプログラマブルな半導体やCPUを活用し、ソフトウェアを書き換えるだけで変調方式や周波数帯などを柔軟に変更できます。
仕組みと構成要素
SDRの基本的な構成は、主に以下の3つの部分に分かれます。
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アナログ高周波部: アンテナから受信した電波を、デジタル信号として処理できる周波数帯域に変換します。
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変換部 (A/D & D/A): アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータで構成されます。この部分で、RF信号から直接ベースバンド信号に変換するダイレクトコンバージョン方式が用いられることもあります。
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デジタル信号処理部: ソフトウェアによって変調、復調、フィルタリングなどの信号処理を実行します。この部分がSDRの中核であり、ソフトウェアを更新することで、さまざまな通信規格や機能に対応できます。
メリットとデメリット
メリット
SDRの最大の利点は、その柔軟性と汎用性です。
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柔軟な機能変更: ソフトウェアを更新するだけで、新しい通信規格や変調方式に対応できます。これにより、ハードウェアの交換なしに、複数の通信方式を1台の無線機で実現できます。
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開発コストと期間の削減: 新しい無線システムを開発する際、ハードウェアを一から設計する必要がなく、ソフトウェア開発に注力できるため、開発コストと期間を大幅に削減できます。
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小型・軽量化: 複数の無線機を1台に統合できるため、機器の小型化と軽量化につながります。
デメリット
一方で、SDRにはいくつかの課題もあります。
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高速処理の要求: ソフトウェアで複雑な信号処理を行うため、高性能なプロセッサが必要となり、消費電力が増加する傾向があります。
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リアルタイム性の制約: ソフトウェアの処理速度によっては、リアルタイム性が重要なアプリケーションで遅延が発生する可能性があります。
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設計の複雑性: ハードウェアとソフトウェアを統合的に設計する必要があり、高度な専門知識が求められます。
応用分野
SDR技術は、その高い柔軟性から様々な分野で活用されています。
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軍事・防衛: 軍用無線機は異なる国や部隊間で多様な通信規格に対応する必要があるため、SDRは相互運用性を高める上で不可欠な技術です。
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携帯電話通信: 基地局や試験装置にSDRが用いられ、新しい通信規格(5Gなど)への迅速な対応を可能にしています。
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アマチュア無線: アマチュア無線家はSDRを利用して、さまざまな周波数帯や変調方式の信号を受信・解析しています。
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研究開発: 無線通信の研究やプロトタイピングにおいて、SDRは迅速な実験や検証を可能にする重要なツールです。
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無線周波数モニタリング: 無線スペクトルの監視や電波干渉の検出など、広範囲の周波数帯を柔軟にスキャンする用途に利用されます。
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