SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA5000Aシリーズ

ドハティ増幅器は、無線通信分野で広く用いられる高効率な電力増幅器の一種です。特に、振幅の変動が大きい信号(PAPR:Peak to Average Power Ratioが高い信号)を扱う際に、一般的な増幅器よりも高い効率を維持できるという特徴があります。ドハティ増幅器は、1936年にW.H.ドハティによって提案された増幅器の回路方式で、複数の増幅器を組み合わせることで、高効率と広帯域特性を両立させることを目指しています。

 

動作原理

 

ドハティ増幅器は、以下の2つの増幅器を組み合わせて構成されています。

  1. 主増幅器(キャリア増幅器):AB級でバイアスされ、入力信号が小さいときから増幅を開始します。

  2. 補助増幅器(ピーク増幅器):C級でバイアスされ、入力信号が一定レベルを超えたときに増幅を開始します。

この2つの増幅器の出力を、一般的には1/4波長線路(インピーダンス変換器)を用いて合成します。この1/4波長線路が、負荷変調と呼ばれる重要な役割を果たします。

 

信号の大きさによる動作の違い

 

  • 入力信号が小さいとき:主増幅器のみが動作し、補助増幅器はオフの状態です。このとき、1/4波長線路の働きにより、主増幅器には合成器側の負荷がインピーダンス変換され、最適な負荷が与えられます。

  • 入力信号が大きいとき:入力信号が一定レベルを超えると、補助増幅器がオンになり、主増幅器と補助増幅器の両方が動作します。このとき、補助増幅器からの出力も加わることで、主増幅器にかかる負荷がさらに変動し、両方の増幅器が増幅を続けます。この負荷の変動(負荷変調)により、入力電力の広い範囲で増幅器の効率を高く保つことができます。

 

特徴

 

  • 高効率:特にPAPRが高い信号を扱う際、信号の振幅が小さい(バックオフ)状態でも効率を高く維持できるため、一般的な増幅器よりも電力効率に優れています。

  • 負荷変調:1/4波長線路を利用した負荷変調によって、広いダイナミックレンジで高効率動作を実現します。

  • 狭帯域性:構成上、1/4波長線路の周波数特性に依存するため、一般的には狭帯域な特性になりやすいという課題があります。しかし、近年では、この課題を克服するために、GaN(窒化ガリウム)トランジスタの採用や、周波数依存性を補償する回路技術などが開発されています。

  • 5G基地局での採用:5Gのような移動通信システムでは、PAPRが高い信号が用いられることが多いため、ドハティ増幅器は基地局向けの電力増幅器として主流になっています。

 

まとめ

 

ドハティ増幅器は、主増幅器と補助増幅器を組み合わせ、負荷変調という技術を用いることで、広いダイナミックレンジで高い効率を実現する電力増幅器です。移動通信システムのように振幅変動の大きい信号を扱う用途で、その真価を発揮します。