
IEC 62333-1および-2規格は、デジタル機器などに使用されるノイズ抑制シートの性能を評価するための国際規格です。これらの規格は、シートのノイズ抑制効果を客観的に測定し、比較するための方法を定めています。
IEC 62333-1:2006
この規格は、ノイズ抑制シートの伝送減衰率を測定する方法を規定しています。具体的には、マイクロストリップライン構造を持つプリント基板上にノイズ抑制シートを配置し、シート装着前後の信号の透過特性を比較することで、ノイズ抑制効果を評価します。この測定により、シートがどれだけのノイズを抑制できるかを示す「抑制率」を算出します。
この規格は、ノイズ抑制シートを特定の治具に貼り付けて、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いてSパラメータ(散乱パラメータ)を測定し、その結果から「伝送減衰率」などの指標を求める方法を規定しています。
ベクトルネットワークアナライザ (VNA)
ベクトルネットワークアナライザ(VNA)は、RF(無線周波数)およびマイクロ波帯の電子部品や回路の振幅と位相の両方を測定する試験装置です。 VNAは、デバイスに既知の信号を印加し、その信号がデバイスを通過または反射する際の振幅と位相の変化を測定します。この測定により、以下のようなパラメータを正確に評価できます。
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Sパラメータ(Scattering Parameters): 信号の反射や透過の特性を表すパラメータで、RF回路の性能評価に広く用いられます。
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インピーダンス: 回路の交流抵抗。
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VSWR(Voltage Standing Wave Ratio): 定在波比。
IEC 62333-1規格では、ノイズ抑制シートの評価において、VNAが測定するSパラメータ(特に透過係数であるS21や反射係数であるS11が、ノイズ抑制効果を定量的に示すために不可欠な要素となります。
IEC 62333-2:2006
この規格は、ノイズ抑制シートの反射減衰率を測定する方法を規定しています。シートを配置した際の信号の反射特性を測定することで、シートがノイズを吸収し、反射を抑制する能力を評価します。
これらの規格に準拠することで、ノイズ抑制シートのメーカーは製品の性能を信頼性高く提示でき、ユーザーは製品の選定を容易に行うことができます。
その測定にVNA(ベクトル・ネットワーク・アナライザ)が用いられます。
IEC 62333-2:2006
IEC 62333-2は、「デジタル装置及び機器のノイズ抑制シート—第2部:測定方法」という名称の国際規格です。電子機器の小型化・高機能化が進む中で、ノイズ抑制シートは電磁ノイズを熱に変換することで、機器の誤動作や他の機器への影響を防ぐために広く使われています。この規格は、そのノイズ抑制シートの性能を評価するための測定方法を規定しています。具体的には、**伝送減衰率(Rtp)や輻射抑制率(Rrs)**などの性能を測定する手順が定められています。
VNA(Vector Network Analyzer)
VNAは、高周波回路や電子部品の電気的特性を測定する計測器です。正式名称は「ベクトル・ネットワーク・アナライザ」で、略称としてVNAがよく使われます。
VNAは、被測定物(DUT: Device Under Test)に高周波信号を送り、その信号がどれだけ透過・反射されたかを、振幅と位相の両方で測定できます。この測定結果は「Sパラメータ(散乱パラメータ)」として表されます。
IEC 62333-2とVNAの関係
IEC 62333-2で規定されているノイズ抑制シートの性能測定、特に伝送減衰率(Rtp)の測定において、VNAは重要な役割を果たします。VNAでSパラメータ(具体的にはS21とS11)を測定することで、ノイズ抑制シートがどれだけノイズを抑制する効果があるかを評価します。
参考:「フェライトを充填した電波吸収体を使ったRFの自己干渉低減」SIGLENT TG付きスペアナ、VNA機能付きスペアナ
https://tm-co.co.jp/siglent-ssa_tg_itj105/