ファンクションジェネレータ入門(9)最新技術と今後の展望

 

■はじめに

ファンクションジェネレータは、数十年にわたって電子計測の現場で使われ続けてきた定番ツールです。近年では、アナログからデジタル、固定周波数から任意波形へと進化を遂げ、ますます多機能化・高精度化が進んでいます。

最終回となる本稿では、現在のファンクションジェネレータに搭載されている最新技術や注目すべき進化ポイント、そして将来的な展望について紹介します。

 

■高分解能・高精度化の進展

近年のファンクションジェネレータでは、DAC(デジタル-アナログ変換器)の性能向上により、より滑らかで忠実な波形出力が可能になっています。

・ 16ビットや20ビット以上の分解能による微細な波形表現
・ 1ppm(百万分の1)レベルの周波数安定性を持つクロック
・ 位相ジッタの低減による正確なタイミング出力
・ オーバーサンプリングによるノイズ低減と高忠実度波形

高精度を必要とするアナログ回路設計やセンサ開発において、こうした高分解能モデルの需要が高まっています。

 

■広帯域・高速出力対応

RFや高速デジタル信号の開発に対応するため、出力帯域の拡大が進んでいます。

・ 数十MHz〜GHz帯まで対応可能なモデルの登場
・ 高速上昇・下降エッジ(例:ナノ秒以下)での矩形波生成
・ 高速バースト・スイープ出力に対応
・ 高速任意波形再生(数Gsps対応)による複雑波形の再現

これにより、従来は専用の信号源が必要だった用途にも、ファンクションジェネレータ1台で対応できるようになっています。

 

■任意波形(ARB)機能の進化

任意波形(ARB:Arbitrary Waveform)は今や高機能ファンクションジェネレータの標準機能となり、その再生性能も大幅に向上しています。

・ 1波形あたり数百万ポイント以上を保存可能
・ 複数セグメント波形を連結再生(シーケンス制御)
・ 波形のリアルタイム編集やリモート転送
・ 実測波形(CSV/BIN)をオシロスコープから直接転送し再生

これにより、過去の異常波形の再現や、複雑なアナログ制御信号の生成が格段に容易になっています。

 

■複数チャンネル・同期出力機能

マルチチャンネル化により、複雑な試験系の構築や、クロックとデータなどの関係信号出力が1台で実現可能になっています。

・ 2ch〜4chの独立または同期動作に対応
・ 相対位相やタイミングの個別調整
・ トリガ・シンクロナイズでの複数機器連携
・ マスタースレーブ構成で多台数制御も可能

FPGA制御や高速マイコン開発など、複数の信号が必要な環境で大きな利点があります。

 

■GUI・ネットワーク機能の充実

操作性と遠隔制御性も大きく進化しています。

・ 大型カラー液晶による視覚的な波形編集
・ タッチパネル対応モデルの登場
・ LAN(VXI-11、HiSLIP)やUSB、Wi-Fiなど多様なインターフェース
・ Webブラウザやアプリ経由でのリモート制御
・ SCPIコマンドに準拠した自動試験システムへの統合

実験室外からの制御やIoT時代の自動化要求に対応した設計が進んでいます。

 

■AI・自動最適化との連携の可能性

今後の展望として、AIや自動最適化技術との連携が注目されています。

・ 波形の自己最適化(目標波形へのフィッティング)
・ 過去の測定データに基づく波形生成アシスト
・ 機械学習による出力パターンの分類・予測
・ 複雑な信号制御を自動的にチューニング

特に開発初期段階での信号探索や品質改善の場面で、AIとの融合が期待されています。

 

■統合型信号源への進化

ファンクションジェネレータの定義は、今後さらに広がっていく可能性があります。

・ スペクトラムアナライザとの一体型(ベクトルネットワークアナライザ機能搭載)
・ デジタルパターンジェネレータ機能との統合
・ 高周波信号源としてのVSG(Vector Signal Generator)機能搭載モデルの登場
・ 電流波形生成、シミュレーション連携などへの拡張

「シンプルな信号源」から「インテリジェントな試験支援ツール」への進化が進むと考えられます。

 

■まとめ

ファンクションジェネレータは、今なお進化を続ける計測器のひとつです。高分解能・高帯域・多チャンネル・柔軟な波形制御という特長を備え、電子回路開発・教育・評価・自動化の各分野で重要な役割を担い続けています。

今後は、AIやリモート操作、統合測定プラットフォームへの対応が一層求められる時代に入り、ファンクションジェネレータの価値はますます高まっていくでしょう。


ファンクションジェネレータ入門 全9回 目次案(案)

第1回 ファンクションジェネレータとは?
基本的な役割や波形の種類(正弦波・方形波・三角波など)、用途とオシロスコープとの組み合わせについて解説。

第2回 出力波形の種類と特性
各種波形の用途・特性・注意点(例えば方形波の立ち上がり、パルス幅など)を詳しく説明。

第3回 周波数・振幅・オフセットの設定方法
よく使う3つの基本パラメータについて具体的な操作方法と応用事例を紹介。

第4回 高機能波形:パルス・ランプ・ノイズ・任意波形
基本波形以外に搭載されている特殊波形や、任意波形(Arbitrary Waveform)の活用方法を紹介。

第5回 バースト・スイープ・リニア/ログ制御
時間変化を加えた信号生成の方法と、フィルタやアンプ特性評価への応用例を紹介。

第6回 外部トリガ・シンクロ機能の使い方
外部機器との同期、波形開始タイミング制御など、高度な実験に必要なトリガ設定を解説。

第7回 実験・開発での活用例
電源回路評価、モータ制御、センサテストなど、実際の応用例に基づいた使い方紹介。

第8回 トラブル事例とその対策
信号出力がうまくいかない、波形が歪む、オシロに信号が映らない等の原因と対処法。

第9回 最新技術と今後の展望
多チャネル化、DDS方式、デジタル波形合成、PC連携など、最近の機能動向や選定ポイン