ワイドバンドギャップ(WBG: Wide Band Gap)半導体デバイス技術は、従来のシリコン(Si)半導体の限界を超える特性を持ち、特にパワーエレクトロニクスと高周波通信の分野で革命をもたらす次世代の基幹技術です。
代表的な材料として、**SiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)**があります。これらの材料は、Si(約1.1eV)に比べてバンドギャップが約3倍以上(約3eV以上)広いことが特徴です。
ワイドバンドギャップ半導体の主なメリット
バンドギャップが広いことにより、以下のような優れた物理特性が得られ、デバイス性能が飛躍的に向上します。
| 物性 | SiC / GaN の特徴 | デバイスへの効果 |
| 絶縁破壊電界強度 | 極めて高い(Siの約10倍) | 高耐圧化が可能。同じ耐圧なら素子サイズを劇的に小型化でき、システムの小型・軽量化に直結。 |
| キャリア飽和速度 | 非常に速い | 高速スイッチングが可能になり、スイッチング時の電力損失を大幅に低減。 |
| バンドギャップ | 広い | 高温での動作が可能(耐熱性向上)。冷却システムを簡素化できるため、システムのコストとサイズの最適化に貢献。 |
| 熱伝導率 | 高い(特にSiCやダイヤモンド) | デバイスから効率よく放熱でき、冷却システムの小型化や不要化に貢献。 |
これらの特性により、SiCやGaNデバイスは、導通損失(オン抵抗)とスイッチング損失の両方を大幅に削減し、電力変換効率を劇的に向上させます。
主要なワイドバンドギャップ材料と用途の棲み分け
| 材料 | 特徴と強み | 主な用途 |
| SiC (炭化ケイ素) | 高い耐圧、高い熱伝導率。縦型構造が可能で、大電流・高耐圧用途に強い。 | 電気自動車(EV)のインバータ、鉄道、産業機器、再生可能エネルギー(太陽光発電など)のパワーコンディショナ。 |
| GaN (窒化ガリウム) | 極めて速い電子移動度による超高速スイッチング特性。中耐圧・高周波用途に強い。 | データセンターのサーバー用電源、5G/Beyond 5G通信の基地局、急速充電器(USB-PD)、ワイヤレス給電。 |
技術開発と普及に向けた課題
SiCやGaNの優位性は明らかですが、Siデバイスを完全に置き換えるためには、以下の課題克服が不可欠です。
1. 結晶成長と高品質化
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基板の欠陥低減: SiCやGaNは、Siに比べて単結晶を製造するのが難しく、結晶欠陥(転位、積層欠陥など)がデバイスの性能や長期信頼性を損なう原因となります。高品質で大口径のSiC/GaNウェーハを安定供給するための技術開発が必要です。
2. 製造コストの低減
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ウェーハの高コスト: SiC基板は製造が難しく、Si基板に比べて非常に高価です。GaNはSi基板上での成長(GaN-on-Si)も可能ですが、まだコストが高く、製造プロセスの改善による低コスト化が最大の課題です。
3. デバイスの信頼性
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界面制御: SiC MOSFET(最も普及しているSiCデバイス)では、半導体とゲート酸化膜の界面特性がデバイス性能と信頼性を大きく左右するため、この界面欠陥の制御技術が重要です。
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長期信頼性の検証: EVなど長期間使用されるアプリケーションでの寿命や信頼性を保証するための実証データと評価手法の確立が求められています。


