位相雑音 (Phase Noise)ジッタ (Jitter) は、信号の時間的な安定性を評価する際に重要なパラメータであり、RF通信高精度のクロック生成において特に重要な要素です。


1. 位相雑音 (Phase Noise)

1.1 定義

  • 位相雑音は、理想的な正弦波信号からの位相の揺らぎを示す指標で、信号の周波数安定性に関する評価に使用されます。

  • 特に発振器PLL (Phase Locked Loop) などの高周波回路で重要です。


1.2 位相雑音の表現方法

  • 位相雑音は通常、周波数スペクトルとして以下のように表されます。

  • L(f)L(f):オフセット周波数**ff** における位相雑音

  • PsidebandP_{\text{sideband}}:搬送波から**ff** オフセットした位置の雑音電力

  • PcarrierP_{\text{carrier}}:キャリア信号の電力


1.3 位相雑音の特徴

  • 狭帯域性:キャリア周波数に近い位置で急激に増加

  • 広帯域性:キャリアから遠ざかるほど徐々に減少

  • 1/fノイズ:低周波数オフセットで目立つ

  • 白色雑音:高周波数オフセットで顕著


1.4 位相雑音の原因

  • 発振器の設計(結晶の品質、Q値)

  • 回路ノイズ(抵抗の熱雑音、トランジスタの1/f雑音)

  • 電源ノイズ(電源のリップルやスイッチングノイズ)


1.5 位相雑音の影響

  • 通信システム:信号品質の低下、BER (Bit Error Rate) の増加

  • レーダー:レンジ精度の低下

  • GPS:測位精度の低下

  • 周波数合成:クロック信号の精度低下


2. ジッタ (Jitter)

2.1 定義

  • ジッタは、信号の時間的な揺らぎやタイミングの不安定性を示す指標で、デジタル信号やクロック信号で特に重要です。

  • 位相雑音と異なり、時間軸における変動として直接測定されます。


2.2 ジッタの分類

ジッタの種類 特徴 主な原因
周期ジッタ 周期的な揺らぎ 電源リップル、クロック相互干渉
ランダムジッタ ガウス分布に従う 熱雑音、量子ノイズ
デューティサイクルジッタ 高レベルと低レベルの不均等 回路の非対称性
位相ジッタ 周波数変動に起因 発振器の安定性
タイミングジッタ 信号の遅延 ケーブル長、伝送路の不整合

2.3 ジッタの測定

  • TIE (Time Interval Error)

    • 理想タイミングからのズレ

  • RMSジッタ

    • 統計的な標準偏差

  • ピークジッタ

    • 最大の時間変動

  • 周期ジッタ

    • 各周期間の変動


2.4 ジッタの影響

  • データ転送速度の低下

  • ビットエラーレート (BER) の増加

  • 信号の歪みやクロストーク

  • 通信の信頼性低下


3. 位相雑音とジッタの関係

  • 位相雑音は、ジッタの周波数領域での表現と捉えることができます。

  • 位相雑音の積分により、ジッタの時間領域での値が求められます。


4. 実用的な対策

  • 位相雑音対策

    • 高Q値の発振器選定

    • 電源のフィルタリング

    • 適切な基板設計(シールド、グラウンドプレーン)

  • ジッタ対策

    • 位相ロックループ (PLL) の最適化

    • 信号経路の短縮

    • リタイマやイコライザの使用


5. まとめ

特徴 位相雑音 ジッタ
測定領域 周波数領域 時間領域
単位 dBc/Hz 秒 (ps, fs)
原因 回路雑音、電源変動 ケーブル遅延、温度変化
影響 周波数安定性 タイミング精度

このように、位相雑音とジッタは異なる観点から信号の安定性を評価するものですが、密接な関係があり、高精度なシステム設計では両方の特性を同時に考慮する必要があります。