
位相雑音測定におけるクロス相関法は、測定器のノイズを低減し、より高い感度で被測定デバイス(DUT)の位相雑音を測定するための強力な手法です。
原理
この方法は、主に以下の2つのステップに基づいています。
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2系統の測定系で同時測定: 被測定信号を2つの独立した測定チャンネルに分配し、それぞれのチャンネルで位相雑音を測定します。このとき、各チャンネルの測定系には、DUTに由来する相関のあるノイズと、それぞれの測定系に由来する相関のないノイズ(ランダムノイズ)が混在しています。
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クロス相関処理: 2つのチャンネルから得られた信号のパワースペクトルをクロス相関処理します。この処理により、相関のあるノイズ(DUTの位相雑音)はそのまま残り、相関のないノイズ(測定器のノイズ)は平均化されて除去されます。これにより、測定器のノイズフロアよりも低い位相雑音を測定することが可能になります。
利点
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感度の向上: 測定器自体のノイズフロアを仮想的に下げることができるため、非常に低ノイズな発振器などの位相雑音測定に有効です。相関回数を増やすことで、感度は dB(は相関回数)改善されます。
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低ノイズな基準源が不要: 従来の測定法では、DUTよりも低ノイズな基準源が必要でしたが、クロス相関法では、測定器のノイズが除去されるため、DUTよりもノイズの大きい基準源を使用しても高精度な測定が可能です。
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熱雑音限界に近い測定: この手法により、-177dBc/Hzといった熱雑音限界に近い超低ノイズの測定が可能になります。
このビデオは、位相雑音測定におけるクロス相関の原理を解説しています。
Phase Noise Measurement using Cross-Correlation
デメリット
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高価:クロス相関方式を採用した位相雑音測定器の価格は、数百万円から数千万円と非常に高価です。
この価格は、測定器の周波数帯域、感度、機能(パルス信号測定、AMノイズ測定など)によって大きく変動します。
主なメーカーと製品価格帯 (出典:Google Gemini)
高感度な位相雑音測定は、高度な技術と高価な部品を要するため、市場の主要なメーカーは限られています。
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Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー):
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E5052B シグナル・ソース・アナライザ:2,700万円以上から
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E5053A マイクロ波ダウンコンバータ(E5052Bの拡張オプション):1,600万円以上から
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Rohde & Schwarz(ローデ・シュワルツ):
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R&S FSWPシリーズ(位相雑音アナライザ/VCOテスタ):約2,000万円以上から
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クロス相関方式の位相雑音測定器が高価な理由
これらの測定器は、単なるスペクトラムアナライザとは異なり、非常に高い感度で信号源自体の位相雑音を測定するために、以下のような高度な技術と機能が組み込まれています。
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超低ノイズリファレンス(基準信号源): 測定器自身のノイズが測定結果に影響を与えないよう、極めてノイズの少ない基準信号源を内蔵しています。
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クロス相関アルゴリズム: 2つの独立した測定パスを設け、それぞれの測定パスで発生するノイズを統計的にキャンセルすることで、測定器のノイズフロアを大幅に低減します。この技術により、非常に低ノイズな被測定信号でも正確に測定できます。
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高度なデジタル信号処理(DSP): 膨大な量のデータをリアルタイムで処理し、クロス相関演算を高速で行うための高性能DSPが搭載されています。
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広い周波数範囲とオプション: 高周波(ミリ波帯など)まで測定可能にするためのダウンコンバータや、パルス信号測定などの特殊なアプリケーションに対応するためのオプションが用意されており、これらを追加するとさらに価格が上昇します。
これらの測定器は、通信機器、レーダー、衛星システム、高精度クロックなどの分野で、信号源の性能を評価するために不可欠なツールであり、その専門性と高度な技術が価格に反映されています。
低価格製品紹介: 388万円(13.6GHz)~
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SIGLENT社:(クロス相関方式を使用していない) 汎用品の信号源SSB位相雑音評価用
■SIGLENT製品価格表(税別) | 2025/4/1 | |
型名 | 仕様 | 定価 |
SSA5083A | スペクトラム・アナライザ:9kHz ~ 13.6GHz | ¥3,430,000 |
SSA5085A | スペクトラム・アナライザ:9kHz ~ 26.5GHz | ¥3,970,000 |
SSA5000-P3 | プリ・アンプ, 9 kHz ~ 13.6 GHz | ¥230,000 |
SSA5000-P5 | プリ・アンプ, 9 kHz ~ 26.5 GHz | ¥390,000 |
SSA5000-PN | 位相ノイズ測定(ソフトウェア) | ¥220,000 |
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