短波帯表面波レーダー(High-Frequency Surface Wave Radar, HFSWR)について詳しくご説明します。
HFSWRは、通常のレーダーでは水平線に遮られて見えない**水平線外(Beyond-the-Horizon)**の広大な海域を監視するために用いられる特殊なレーダーシステムです。
🛰️ HFSWRの仕組みと特徴
1. 表面波の利用
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短波帯(HF帯)の電波(3MHz~30MHz程度)は、波長が比較的長く、電気がよく通る海面や大地に沿って回り込むように伝わる性質があります。この伝搬を表面波と呼びます。
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HFSWRはこの表面波を利用することで、地球の丸みの影響を受けずに、数百km以上離れた目標にも電波を到達させることができます。
2. ブラッグ散乱による海洋観測
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HFSWRから送信された電波が海面に当たると、**波浪(海面の波)**と特定の関係(ブラッグ条件)を満たしたときに強い共鳴的な散乱波(ブラッグ散乱波)が発生します。
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この散乱波を解析することで、海面の流速(海流)や波高、波向といった海洋物理情報を高精度でリアルタイムに観測できます。
3. 目標の探知
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電波が海上の船舶や航空機などの目標に当たって反射したエコーを受信し、目標の位置や速度を割り出します。
4. 観測可能距離
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観測可能距離は、送信電力や周波数、海面の状態に依存しますが、一般的に200kmから400km以上の広範囲に及びます。
🎯 主な用途
HFSWRの広域監視能力と海洋観測能力は、様々な分野で活用されています。
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広域警戒監視・防衛 🛡️
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領海・排他的経済水域(EEZ)における不審船や領空侵犯の航空機の早期探知・追尾。
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沿岸域の海上交通の監視。
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海上保安 🚢
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密漁や密輸などの不法行為を行う船舶の監視。
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海難事故時の捜索救助活動の支援。
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海洋環境観測 🌊
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リアルタイムでの海流や波の観測。
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漁業資源の管理や油の流出予測など、海洋予測モデルのデータ提供。
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HFSWRは、通常のマイクロ波レーダー(水平線までしか見えない)や衛星搭載レーダー(天候やコストに制約がある)を補完する、継続的な広域沿岸監視システムとして非常に重要な役割を担っています。





