量子コンピュータ制御における4chコヒーレントマイクロ波信号発生器の役割は、非常に専門的かつ重要です。

ここでは、最も実用化が進んでいる超伝導量子ビットを例に、その活用方法を解説します。


 

🔬 量子コンピュータ制御における役割

 

マイクロ波信号発生器は、超伝導量子コンピュータにおける量子ビット(Qubit)を操作するための心臓部であり、特に多チャンネルでコヒーレントな信号が必要とされます。

 

1. 量子ビット(Qubit)の操作(ゲート操作)

 

超伝導量子ビットは、通常、約5 GHz付近のマイクロ波パルスを照射することで、その量子状態を操作します。この操作は量子ゲートと呼ばれ、計算の基本となります。

制御の役割 必要なコヒーレンスの理由
Xゲート、Yゲート(状態反転) パルスの照射時間と位相を正確に制御することで、量子ビットの状態をブロッホ球上で正確に回転させます。僅かな位相のズレが演算エラーに直結します。
Zゲート(位相操作) 周波数を変調することで位相を制御しますが、この変調信号の安定性(コヒーレンス)が、計算後の量子重ね合わせ状態の精度を決定します。

 

2. 多量子ビットの並列制御(4chの活用)

 

現在の量子コンピュータは、数十から数百の量子ビットを持つようになっています。4chのコヒーレント信号発生器は、この多数の量子ビットを効率的かつ正確に制御するために使用されます。

  • 多重化制御: 1つのマイクロ波線路に、周波数の異なる信号(例えば、Qubit 1用、Qubit 2用、Qubit 3用、Qubit 4用)を載せて、同時に4つの量子ビットを制御する実験が可能です。4つのチャネルすべてが同じリファレンスクロックから生成されるコヒーレントな信号であるため、チャネル間の位相・タイミングのずれがなく、高精度な多量子ビット操作が可能になります。

  • 結合制御: 複数の量子ビットを結合(エンタングルメント)させるためのゲート操作(例:CNOTゲート)では、複数の制御線路に対して、厳密なタイミングで同期したパルスを同時に印加する必要があります。4chコヒーレント信号発生器は、この複雑な同期制御の信頼性の基盤となります。

 

3. 量子ビットの状態の読み出し(Readout)

 

  • 量子ビットの状態を計測する際も、特定の周波数のマイクロ波(リードアウト周波数)を使用します。

  • 4chのうちの1チャネルを読み出し用のマイクロ波源として使い、残りのチャネルを並行して他の量子ビットの制御に使うといった、複合的な実験設定に対応できます。

 

📌 4chコヒーレンスが不可欠な理由

 

  1. 低位相雑音: 量子ビットの操作パルスに位相雑音(ジッタ)が多いと、量子ビットのデコヒーレンス(量子状態が失われる現象)を早め、計算の忠実度(Fidelity)が低下します。超低位相雑音のコヒーレント信号源が必須です。

  2. 位相の同期: 量子ゲート操作はパルスの位相に強く依存します。複数のチャネル間で位相が正確に同期している(コヒーレントである)ことが、並列かつ正確な量子操作を保証します。


このように、4chコヒーレントマイクロ波信号発生器は、量子コンピュータの精度スケーラビリティを追求する上で、欠かせない中核的な装置となっています。