
トロイドやギャップレス・コアは、EMC(電磁両立性)対策において重要な役割を果たす部品です。それぞれが持つ特性を活かして、特定のノイズ対策に用いられます。
トロイドコア
トロイドコアは、円環状のフェライトコアで、コイルを巻いて使用します。主にコモンモードチョークコイルとして、以下のようなノイズ対策に効果を発揮します。
-
コモンモードノイズの抑制: トロイドコアは、電源ラインや信号ラインに流れるコモンモードノイズ(同相ノイズ)を効果的に抑制します。コモンモードノイズは、ケーブルや配線から放射され、他の機器に影響を与えたり、機器自体の誤動作を引き起こしたりする原因となります。トロイドコアに電源線とグラウンド線を同時に通すことで、互いに逆方向の電流が流れるノーマルモードノイズは打ち消し合い、同方向の電流が流れるコモンモードノイズのみに大きなインピーダンスを持たせ、減衰させることができます。
-
高周波ノイズ対策: トロイドコアは、コアの材質(フェライトの種類)によって、効果的な周波数帯域が異なります。特定の高周波ノイズを狙って対策を行う場合は、その周波数帯域で高い透磁率を持つコアを選択します。
-
巻き方による効果: トロイドコアに線を巻く方法には、バイファイラ巻きやキャンセル巻きなどがあります。いずれの巻き方でもコモンモードノイズに効果がありますが、目的に応じて使い分けられます。
ギャップレス・コア
ギャップレス・コアは、一般的に「コア」と呼ばれるもので、トロイドコアとは異なり、形状に「ギャップ(隙間)」がありません。これに対して、トランスやチョークコイルなどに使われるコアには、磁気飽和を防ぐために意図的にギャップが設けられることがあります。ギャップレス・コアは、高い透磁率を持つため、小さな磁界でもインダクタンスを大きくすることができます。
ギャップレス・コアは、トロイドコアと同様に、コモンモードノイズ対策に用いられることが多いですが、以下のような特徴があります。
-
小型化: ギャップを設けないことで、コアを小型化し、高効率なインダクタンスを実現できます。
-
高い透磁率: ギャップがないため、磁気抵抗が小さくなり、高い透磁率を得ることができます。これにより、より小さなコアで大きなインピーダンスを確保することができます。
-
周波数特性: ギャップレス・コアも、コアの材質によって周波数特性が異なります。
トロイドとギャップレス・コアの使い分け
両者は、EMC対策においてコモンモードノイズを抑制するという共通の目的で使用されますが、以下のような使い分けが考えられます。
-
トロイドコア:
-
コモンモードチョークコイルとして、電源ラインや信号ラインのノイズ対策に広く用いられます。
-
ケーブルを複数回巻くことで、インピーダンスをさらに高めることができます。
-
クランプコアとして、既存のケーブルに後付けでノイズ対策を行う場合にも使用されます。
-
-
ギャップレス・コア:
-
高周波ノイズ対策用のチョークコイルやインダクタとして、回路基板上に組み込まれることが多いです。
-
小型で高いインダクタンスが必要な場合に適しています。
-
トロイドコアに比べて、磁気飽和が起こりやすい傾向があるため、DCバイアス電流が大きい用途には注意が必要です。
-
EMC対策においては、機器からのノイズ放射(EMI)を抑える対策と、外部からのノイズに対する耐性(イミュニティ)を高める対策の両方が重要です。トロイドやギャップレス・コアは、これらの対策の常套手段であり、ノイズの種類や周波数、電流の大きさ、実装スペースなどを考慮して、最適な部品が選定されます。