
2ch VSA (Vector Signal Analyzer) は、SDR (Software Defined Radio) で実装できます。これには、ソフトウェアとハードウェアの両方が必要です。
必要なハードウェア
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SDRデバイス: SDRデバイスは、アナログRF信号をデジタルデータに変換するためのものです。低価格なものから高性能なものまで様々な種類があります。一般的な例としては、RTL-SDR(低価格で入門向け)、HackRF One(広帯域で送信も可能)、USRP(研究・プロフェッショナル向け)などがあります。
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コンピューター: ソフトウェアを動作させるためのPCが必要です。
必要なソフトウェア
VSAを構築するためには、SDRデバイスを制御し、受信した信号を処理するためのソフトウェアが必要です。
信号処理ソフトウェア
多くのSDRソフトウェアは、スペクトラムアナライザ機能(周波数領域での信号表示)を持っていますが、VSAのようにI/Q信号(同相成分と直交成分)を扱うためのツールが必要です。
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GNU Radio: オープンソースのソフトウェア開発ツールキットで、信号処理ブロックをフローグラフで接続して、さまざまな無線通信システムを構築できます。VSA機能も実装可能です。
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SDR# (SDRSharp): Windows向けの一般的なSDRソフトウェアで、多くのSDRデバイスに対応しています。プラグインを追加することで、I/Q信号の表示や分析機能を利用できる場合があります。
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Gqrx SDR: GNU RadioベースのGUIアプリケーションで、LinuxやmacOSで動作します。
VSAの基本的な処理
VSAをSDRで実装する場合、以下の処理が中心になります。
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信号受信: SDRデバイスでアナログRF信号を受信し、デジタルI/Qデータに変換します。
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I/Qデータ取得: ソフトウェアがSDRデバイスからストリーミングされるI/Qデータを受信します。I/Qデータは、信号の振幅と位相の両方を表現するのに不可欠です。
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変調解析: I/Qデータを使用して、信号の変調方式(AM、FM、PSK、QAMなど)を解析します。
- Coherence(コヒーレンス):2chの信号間の相関、関係性を数値(0から1)で評価可能です。2chの信号が同一、関係性が深いほど1に近くなります。
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コンスタレーション図の表示: QAMやPSKなどのデジタル変調信号では、I/Qプロット(コンスタレーション図)を作成することで、信号品質やエラーを視覚的に確認できます。
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EVM(Error Vector Magnitude)の計算: 理想的なコンスタレーション点からの実際の信号点のずれ(誤差ベクトル)を測定し、信号の品質を定量的に評価します。
実装例(GNU Radioを使用)
GNU RadioでVSAを構築する簡単なフローは以下のようになります。
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USRP Source / RTL-SDR Source: SDRデバイスからI/Qデータを受信するためのブロック。
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Frequency Sink / QT GUI Time Sink: 受信したI/Qデータを時間領域や周波数領域で表示するためのブロック。
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Constellation Sink: デジタル変調信号のコンスタレーション図を表示するためのブロック。
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Python Scripting: より高度な解析やEVMの計算には、Pythonブロックを使用してカスタムスクリプトを記述します。
このように、SDRと専用のソフトウェアを組み合わせることで、高価な専用測定器に匹敵する機能を手頃な価格で実現できます。ただし、SDRの性能(帯域幅、サンプリングレート、ダイナミックレンジ)が、測定できる信号の質と範囲を決定します。
参考:
- アルファテック7 のPC接続ソフト「マインドセンサー7」では、脳の右脳(Ch1)と左脳(Ch2)の2つの脳波チャンネル間のコヒーレンスを計測できます。
- 画面に表示される中央のバーで、2つの脳波信号の位相が似ている部分(RAW信号)や、優勢な周波数帯の共通部分(共同周波数帯)を色の表示で確認し、脳活動の関連性を分析するのに使われます。
- 星和電機株式会社 の「Noise Finder」システムなどでは、異なる2地点で測定されたノイズ間のコヒーレンスを定量的に評価します。
- この評価により、ノイズの発生物源や伝搬経路を特定する手掛かりを得ることができます。
- コヒーレンスは、元々光学の分野で使われる言葉で、2つの波が干渉したときに、干渉縞の鮮明さや、波の位相がどれだけ揃っているかを示す度合いを指します。
- 一般的に、コヒーレンスが高いほど、2つの信号の関連性が強いと解釈できます。
参考:SIGLENT オシロスコープに実装されたVSAソフトの例:
https://tm-co.co.jp/glossary/signal-analysis-solutions/
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