ベクトルネットワークアナライザ (VNA) における「Auto Port Extension (自動ポート延長)」機能は、測定基準面を自動的に移動させるための機能です。

VNAで高精度な測定を行うためには、校正(キャリブレーション)が非常に重要です。この校正によって、VNAの測定ポートにおける基準面が確立されます。しかし、実際の測定では、被測定デバイス(DUT)とVNAの間にケーブルや治具(フィクスチャ)などが挿入されることがよくあります。この場合、校正で確立された基準面と、DUTの真の測定点(例えばDUTの入力端子)との間に、余分な伝送線路が存在することになります。

この余分な伝送線路は、信号の遅延や損失を引き起こし、正確な測定を妨げます。そこで、ポート延長機能を使って、測定基準面をこの余分な伝送線路の先、つまりDUTの真の測定点まで仮想的に移動させることで、より正確な測定を可能にします。

Auto Port Extension機能の具体的な役割と特徴:

  • 自動的な基準面移動: マニュアルで電気長や損失を設定する代わりに、VNAが自動的に最適なポート延長値を計算して適用します。
  • 簡便な操作: 通常、特定の校正標準器(ショートまたはオープン)を接続するだけで、VNAが自動的に遅延(電気長)と、場合によっては損失を測定・補償します。
  • 測定精度の向上: 余分な伝送線路による影響を除去することで、DUT本来の特性を正確に評価できます。
  • 測定準備の効率化: 手動での設定の手間を省き、迅速に測定を開始できます。

Auto Port Extensionの一般的な手順:

  1. VNAを通常通り校正し、基本的な測定基準面を確立します。
  2. 測定したいDUTに接続されるケーブルや治具をVNAのポートに接続します。
  3. そのケーブルや治具の先に、**ショート(短絡)またはオープン(開放)**の校正標準器を接続します。
  4. VNAのAuto Port Extension機能を有効にし、測定を開始します。
  5. VNAがショートまたはオープンの応答を測定し、そこからケーブルや治具の電気長と(オプションで)損失を自動的に算出して、測定基準面を移動させます。
  6. 計算されたポート延長値が適用された後、標準器を取り外し、DUTを接続して測定を行います。

この機能は、特にケーブルや治具を介して測定を行う必要がある場面で、測定の正確性と効率を大きく向上させるために非常に有用です。