
EVM(Error Vector Magnitude)は、デジタル変調信号の品質を評価するための重要な指標です。日本語では「誤差ベクトル振幅」や「変調精度」と訳されます。
EVMの概念
EVMは、コンスタレーションダイアグラム(コンステレーション図)と呼ばれるグラフを使って理解できます。
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コンスタレーションダイアグラム: デジタル変調された信号は、I軸(同相成分)とQ軸(直交成分)の2次元平面上の点で表されます。これらの点は「シンボル点」と呼ばれ、理想的な位置に配置されるはずです。
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誤差ベクトル: 実際の信号にはノイズや歪みなどが含まれるため、受信された信号のシンボル点は、理想的な位置からずれてしまいます。この**理想的なシンボル点と実際のシンボル点の間のずれをベクトルとして表現したものが「誤差ベクトル」**です。
EVMの計算
EVMは、これらの誤差ベクトルの大きさを統計的に算出した値です。一般的には、すべてのシンボル点の誤差ベクトルの二乗平均平方根(RMS)を計算し、それを理想信号の平均電力の平方根に対するパーセンテージで表します。
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: 測定したシンボル点の数
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理想ベクトルk: 番目のシンボルの理想的なベクトル
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実測ベクトルk: 番目のシンボルの実測されたベクトル
なぜEVMが重要なのか?
EVMは、送信機や受信機の性能を総合的に評価する指標として広く使われています。EVMの値が低いほど、信号の品質が高く、ノイズや歪みが少ないことを意味します。
EVMに影響を与える要因には、以下のようなものがあります。
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送信機の非線形性: パワーアンプなどの増幅器が信号を歪ませる。
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位相雑音: PLL(位相同期ループ)などの発振器の揺らぎ。
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I/Qミスマッチ: I軸とQ軸の振幅や位相のバランスが崩れる。
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熱雑音: 電子回路で発生するランダムなノイズ。
無線LAN(Wi-Fi)などの通信規格では、各変調方式(BPSK, QPSK, 16QAM, 64QAMなど)に応じて、許容されるEVMの最大値が定められています。