
110GHz帯におけるFPOR(Fabry-Pérot Open Resonator:ファブリー・ペロー型開放共振器)を用いた誘電率測定は、高精度化と測定範囲の拡大、そして標準化に向けた取り組みが主な焦点となっています。
110GHz FPOR誘電率測定の最新動向
1. 測定技術の高度化と広帯域化
FPOR法は、非破壊・非接触で低損失材料の誘電率(比誘電率 および誘電正接
)を高精度に測定できる共振器法の一つとして、ミリ波帯(110 GHz帯を含む)で広く利用されています。
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高精度な測定システム:
現在、10 GHzから110 GHzまでをカバーするシステムが商用化されており、さらに110 GHzから170 GHzといったより高い周波数帯域(Dバンド)にも対応するための技術開発が進んでいます。
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比誘電率
の精度は0.5%未満、誘電正接
は
レベル(精度2%未満)という非常に高い精度が実現されています。
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シンプルなセットアップ:
従来のミリ波測定で用いられてきた周波数逓倍器(エクステンダー)を不要とし、シンプルなダイレクト接続で110 GHzまでの測定を可能にするシステムが登場しており、測定の簡便化とノイズ抑制に貢献しています。
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多用途への応用:
FPORは主に低損失固体材料の測定に用いられますが、その原理である自由空間(Free-Space)測定の技術は、液体試料(例:水溶液、生物組織)や薄膜材料の複素誘電率を測定する研究にも応用されています。
2. 国際的な標準化への取り組み
高周波デバイスや次世代通信(5G/6G)の発展に伴い、信頼性の高い誘電率データの需要が高まっており、測定の標準化が重要な課題となっています。
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SIトレーサビリティの確保:
米国のNIST(National Institute of Standards and Technology:国立標準技術研究所)を中心とする国際的な取り組みとして、10 GHzから110 GHzの複素誘電率について、国際単位系(SI)にトレーサブルな標準規格を開発するプロジェクトが進行中です。
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産業界との連携:
iNEMI(International Electronics Manufacturing Initiative)などの業界団体がこの標準規格開発を支援しており、標準参照物質(SRM)のプロトタイプ開発や、ラボ間での測定相互比較を通じて、産業界で有用な測定ツールを確立することを目指しています。
3. その他の共振器・広帯域測定技術との連携
FPOR以外の測定手法でも110 GHz帯の誘電率測定技術が進展しており、相互に補完し合う関係にあります。
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異方性材料の評価:
オンウェハ法(Coplanar Waveguides, CPWなど)に基づいた技術により、FPORでは測定が難しい異方性誘電体のテンソル誘電率(材料の方向によって誘電率が異なる特性)を110 GHzまで評価する研究が進んでいます。
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広帯域測定:
単一の周波数で高精度を出す共振器法(FPOR含む)に対し、超広帯域で誘電率を測定するために、オーバーモード導波管法など、ミリ波帯特有の課題(エアギャップによる誤差など)を克服する新しい手法も開発されています。
FPORは高精度な低損失材料評価のデファクトスタンダードの一つとして確立されつつあり、今後は測定システムの汎用化と、国際的な標準化の確立が鍵となります。
T&Mコーポレーションでは「110GHz複素誘電率測定システム」 - FPOR製品(ネクステム株式会社)と協調してソリューション提供中です。
詳細は、リンク: http://tm-co.co.jp/nextem_fpor/