
GaN(窒化ガリウム)半導体は、ガリウム(Ga)と窒素(N)から成る化合物半導体です。従来の半導体の主流であったシリコン(Si)に代わる、次世代のパワー半導体として注目されています。
GaN半導体は、シリコンと比べてバンドギャップが広いため、「ワイドバンドギャップ半導体」とも呼ばれます。この特性により、高耐圧・低損失での電力変換が可能となり、高効率・小型化・高速化が求められる分野での応用が進んでいます。
GaN半導体の主な特徴
特性 | GaN半導体 | シリコン半導体 | 説明 |
高耐圧 | 非常に優れる | 劣る | 高電圧に耐える能力が高く、絶縁破壊しにくい |
低損失 | 非常に優れる | 劣る | 電力の損失を大幅に低減し、エネルギー効率が高い |
高速スイッチング | 非常に優れる | 劣る | 高速なオン・オフ動作が可能で、高周波数での動作に適している |
高熱伝導率 | 優れる | 劣る | 効率的に熱を放散し、高温環境下での動作や冷却効率に優れる |
これらの特性により、同等の出力でも小型化や軽量化が実現し、発熱も抑えられるため、冷却機構の簡素化にも貢献します。
GaN半導体の主な用途
GaN半導体は、その優れた特性を活かし、様々な分野で活用されています。
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充電器・ACアダプター: 高速充電を可能にし、製品の小型化・軽量化に大きく貢献。現在、最も普及している用途の一つです。
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LED照明: 青色LEDの材料として広く知られており、2014年のノーベル物理学賞の受賞対象となりました。
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電気自動車(EV): モーター駆動用インバーターや車載充電器に用いられ、システムの高効率化と小型化に貢献。
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データセンター: サーバー用電源の効率向上と省エネ化に寄与。
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通信機器: 5G通信の基地局やレーダーシステムなど、高周波を扱う機器に利用されます。
課題
GaN半導体には、いくつかの課題も存在します。高品質で大口径のGaN基板を安価に製造することがまだ難しく、シリコンに比べてコストが高いことが挙げられます。また、過大な電圧に弱いという脆弱性があり、回路設計に工夫が必要となる場合があります。
GaN(窒化ガリウム)半導体における寄生容量とは、素子内部や周囲に物理的に存在する、意図しない静電容量のことです。これは、高速スイッチング時の損失や効率低下の主な原因となります。
寄生容量の種類と影響
GaN半導体デバイス(特にFET)の寄生容量は、主に3つの電極間(ゲート、ドレイン、ソース)に形成され、それぞれ異なる影響を及ぼします。
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入力容量(Ciss): ゲートとソース間の容量です。スイッチング時にゲートを充電・放電するのに必要なエネルギーに直接関係します。この容量が大きいと、スイッチング速度が低下し、ゲート駆動回路の電力消費が増加します。
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出力容量(Coss): ドレインとソース間の容量です。この容量が大きいと、スイッチング時の電圧変化が遅くなり、スイッチング損失が増加します。
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帰還容量(Crss): ゲートとドレイン間の容量です。ミラー効果と呼ばれる現象を引き起こし、スイッチング時の波形に影響を与え、スイッチング損失を増大させる原因となります。
GaNとSi半導体の比較
GaNはSi(シリコン)に比べてバンドギャップが広く、電子移動度が高いという優れた特性を持っています。これらの特性により、GaN半導体はSi半導体よりもはるかに高速なスイッチングが可能です。
GaNデバイスは、Siデバイスに比べて寄生容量が小さいという大きな利点を持っています。この特性により、GaNはSiよりも最大で100倍速くスイッチングでき、より高い周波数での動作や、高効率な電力変換を実現します。このため、GaNは高周波電源や急速充電器、電気自動車のインバータなど、高速・高効率が求められる分野でSi半導体からの置き換えが進んでいます。