GaN(窒化ガリウム)デバイスの評価において、パルスド 測定は非常に重要な手法です。これは、従来のDC(直流)測定では捉えきれない、デバイスの特性を正確に評価するために用いられます。

 

GaNデバイスにおける課題

 

GaNデバイス、特にGaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)は、高周波・高出力用途で優れた性能を発揮しますが、以下の問題がその特性評価を難しくしています。

  1. 自己発熱(Self-Heating): 高い電力密度で動作するため、デバイスが自己発熱します。これにより、チャネルの温度が上昇し、移動度が低下してドレイン電流 () が減少します。DC測定ではこの熱効果が常に存在するため、デバイス本来の(等温状態での)特性を正確に把握することが困難です。

  2. トラップ効果(Trapping Effects): GaNデバイスには、表面や界面、バリア層などに電子や正孔を捕獲する「トラップ」が存在します。これらのトラップは、印加される電圧や時間の変化によって電荷を捕獲・放出するため、デバイスの電流・電圧特性に時間依存性の変動(ヒステリシス)を引き起こします。これにより、DC測定では「電流コラプス」と呼ばれる現象が発生し、ドレイン電流が設計値よりも低くなることがあります。

 

パルスド SMUとは

 

パルスド SMU(Source-Measure Unit)は、これらの課題を解決するために開発された測定システムです。SMUは、電圧を印加(Source)し、その結果流れる電流を測定(Measure)する機能を備えた機器です。

パルスド 測定では、ゲート電圧()とドレイン電圧()を非常に短い時間幅(ナノ秒からマイクロ秒)のパルスで印加し、そのパルス中の電流を測定します。この手法の主な特徴は以下の通りです。

  • 超高速パルス: 短い時間幅のパルスを使用することで、測定中にデバイスが自己発熱するのを防ぎ、ほぼ等温状態での特性を測定できます。

  • トラップ効果の抑制: 短いパルス幅は、トラップが電荷を捕獲・放出するのに必要な時間を与えません。これにより、トラップの影響を最小限に抑えた、「トラップフリー」なデバイス本来の特性を評価できます。

  • ダイナミック特性の評価: DCバイアス点から短いパルスを印加することで、実際のRF(高周波)動作に近い条件でのデバイス特性を評価できます。また、パルス幅やパルス間隔を変化させることで、トラップの捕獲・放出時間を解析することも可能です。

 

測定システム構成

 

パルスド 測定システムは、通常、以下の要素で構成されます。

  • パルスジェネレータ(Pulse Generator): ゲートおよびドレインに印加する高速な電圧パルスを生成します。

  • SMU(Source-Measure Unit): パルス印加中の電流を高速でサンプリング・測定します。

  • プローブステーション(Probe Station): デバイス(ウェハレベル)に接触するためのプローブと、温度制御機能(ヒーターやチラー)を備えています。

  • 制御ソフトウェア: 測定パラメータの設定、データ取得、解析を行います。

 

応用と利点

 

パルスド 測定は、GaNデバイスの以下の特性評価に不可欠です。

  • 電流コラプス解析: DC特性とパルス特性を比較することで、電流コラプスの原因(トラップの存在)を特定し、その影響を定量的に評価します。

  • しきい値電圧()の評価: トラップの影響を除去した正確な$V_{th}$を測定します。

  • 移動度(Mobility)の評価: トラップや自己発熱の影響を除去した、デバイス本来の電子移動度を測定します。

  • 信頼性試験: ゲートストレスやドレインストレスを印加し、その後のパルス測定で特性の変化を追跡することで、デバイスの長期信頼性を評価します。

  • モデル抽出: 高精度なデバイスモデルを構築するために、自己発熱やトラップ効果のない、純粋なデータが必要とされます。パルス測定は、このための基礎データを提供します。

GaNデバイスの性能を最大限に引き出し、信頼性の高い製品を開発するためには、パルスド 測定が不可欠な技術となっています。

 

 

 

 

 
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第4回 電力変換効率とその計算法と省エネが求められる諸般の事情+蛍や人間の生態系エネルギー効率は?
第5回 Web回路シミュレーターの活用(ボタンを選択するだけ!パワエレの回路動作がビジュアルで理解できる便利な無料ツール!)
第6回 Si-IGBTの新構造が続々登場!進化はまだまだ止まらない
第7回 SiC, GaN, 酸化ガリウムGa2O3, ダイヤモンド半導体を全部解説
第8回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信
第9回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) c)太陽光発電 e)蓄電システム
第10回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) e)UPS f) インダクション・ヒーター
第11回 パワーデバイスの最新応用例(特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) g) 急速充電 h) ワイヤレス給電
第12回(シリーズ最終回) SiCパワー半導体の電気自動車EVへの使用例(走行用インバータ、オンボード充電器を一気に解説)
 
【本パワエレ基礎コースの目次】
1.パワーエレクトロニクスの基本の基本編 a)パワー半導体デバイスの種類 次世代パワー半導体の理解を目的に分類し特長を解説 (整流ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBT、GTO) b)そもそも電力変換って、何のために、何をしてるの? 4方式(DCDC、DCAC、ACDC、ACAC)の例を挙げて理解
2.損失の考え方と電力変換の高効率化 a)電力変換とは?その測定例 b)高効率が求められる背景 c)MOSFET損失の簡単な計算例 d)Web回路シミュレーターの活用
3.次世代パワーデバイスの種類と概説 a)Si-IGBTの新構造が続々登場 b)シリコンカーバイド c)窒化ガリウム d)酸化ガリウム e)ダイヤモンド
4.パワーデバイスの最新応用例 (特にSiCなど次世代パワーデバイスを中心に解説) a)PFC回路 b)サーバー、通信 c)太陽光発電 d) 蓄電システム e) UPS f)インダクション・ヒーター g)急速充電 h) ワイヤレス給電 i) 電気自動車への利用(オンボード充電器、トラクションモーター)
5. その他(本シリーズ外で動画公開中+順次新規公開) a)パワーデバイスの市場動向(2,3カ月毎) b)パワーMOSFETの高性能を引き出す設計例 c)新興アプリケーション紹介
 
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出典:SiCパワー半導体推進部