SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA5000Aシリーズ

ミックスドモードSパラメータは、USB、HDMI、PCI Express、1000BASE-T1、10GBASE-T1などの高速差動信号伝送路の特性を評価するための非常に重要な指標です。これは、信号の伝わり方や反射だけでなく、ノイズの発生や耐性も評価できるため、現代の電子機器設計に不可欠となっています。

 

ミックスドモードSパラメータとは?

 

従来のSパラメータ(シングルエンドSパラメータ)が、1本の信号線とGND(基準電位)間の信号を扱うのに対し、ミックスドモードSパラメータは、2本の信号線で1つの情報を伝える差動信号(Differential Mode)と、2本の信号線に同じように乗ってしまうコモンモード信号(Common Mode)の振る舞いを分析します。

差動信号は本来伝えたい信号であり、コモンモード信号は主にノイズ成分として扱われます。ミックスドモードSパラメータは、これらの信号がどのように伝送され、反射し、そして互いにどのように変換されるかを示します。

主に以下の4つの要素で構成されます。

  1. SDD (Differential S-parameters):

    • 入力された差動信号が、どれだけ差動信号として出力されるか(伝送・反射)を示します。

    • これは、信号の減衰(Sdd21)や反射(Sdd11) の大きさを示し、信号品質(シグナルインテグリティ)の最も基本的な指標となります。

  2. SCC (Common-mode S-parameters):

    • 入力されたコモンモード信号(ノイズ)が、どれだけコモンモード信号として伝わっていくかを示します。

  3. SDC (Differential-to-Common mode conversion):

    • 入力された差動信号が、伝送路の不平衡(例:配線パターンの非対称性)などによって、どれだけコモンモード信号に変換されてしまうかを示します。

    • このモード変換は、ケーブルなどがアンテナのように振る舞い、不要な電磁波を放射するEMI(電磁妨害)の主な原因となるため、非常に重要です。

  4. SCD (Common-to-Differential mode conversion):

    • 外部から侵入したコモンモード信号(ノイズ)が、どれだけ本来の差動信号に影響を与えてしまうかを示します。

    • これは、外部ノイズに対する耐性(イミュニティ)の指標となります。


 

CAEツールでの活用法

 

ミックスドモードSパラメータは、CAE(Computer-Aided Engineering)ツールと組み合わせることで、その真価を発揮します。設計の初期段階で問題を予測し、対策を講じることが可能になります。

 

1. 電磁界解析ツールでの抽出

 

まず、プリント基板の配線パターン、コネクタ、ケーブルなどの物理的な形状を電磁界解析ツール(Ansys HFSS, CST Studio Suiteなど)に入力します。ツールは、その構造が持つ電気的な特性を計算し、ミックスドモードSパラメータを「Touchstone形式(.sNpファイル)」などで出力します。この段階で、配線の曲がり角やビア(基板の層間を接続する穴)などが原因で、どの程度のモード変換(Sdc、Scd)が発生するかを正確に予測できます。

 

2. 回路シミュレータでの評価

 

次に、抽出したSパラメータファイルを回路シミュレータ(Keysight ADS, Synopsys HSPICE, Cadence Sigrityなど)に取り込みます。これにより、物理的な伝送路を「ブラックボックス」のモデルとして扱い、ICの送受信モデルと組み合わせた大規模なシミュレーションが可能になります。

具体的な活用例:

  • アイパターン解析: 送信信号が伝送路を通ることで、どの程度波形が劣化するかをシミュレーションし、受信側で正しくデータを読み取れるか(アイが開いているか)を確認します。Sddパラメータが主に影響します。

  • EMIリスク評価: Sdcパラメータの周波数特性を見ることで、どの周波数でEMIが放射されやすいかを予測し、フィルタの追加などの対策を検討できます。

  • ノイズ耐性評価: Scdパラメータを用いて、外部から特定の周波数のノイズが加わった場合に、信号エラーが発生しないかをシミュレーションします。


 

まとめ

 

ミックスドモードSパラメータは、単に信号がどれだけ減衰するかだけでなく、信号がノイズに変わる量(EMI)や、ノイズが信号に与える影響(イミュニティ)を定量的に評価できる強力な指標です。

CAEツールを駆使してこのパラメータを活用することで、製品を実際に製造する前に、高速信号伝送における信号品質やEMCの問題をPC上で詳細に分析・解決することができ、開発の手戻りを減らし、信頼性の高い製品設計を実現します。

 

この動画では、ミックスドモードSパラメータの基本的な考え方について分かりやすく解説されています。
 

EMC村の民「ミックスドモードSパラメータとは」より

 

ミックスドモードSパラメータは、平衡回路や差動伝送回路の特性を表すときに使用されるパラメータで、例えばUSBやHDMIといった高速の差動通信規格の評価に使用されています。

そこで今回は、まずはじめにSパラメータについて簡単におさらいした後に、ミックスドモードSパラメータの概要とその評価方法について解説します。

 

出典:engineer-climb.com/mixed-mode-sparameter/

EMC村の民「平衡回路と不平衡回路」より

 

平衡回路と不平衡回路の「特徴」と「用途」について解説します。

 

出典:engineer-climb.com/balanced/

EMC村の民「ポートネットワークアナライザの活用方法」より

 

SIGLENT製のSNA5004Aをもとに 4ポートネットワークアナライザ(VNA)の活用方法を解説しています。

 

出典:engineer-climb.com/4port-sna5004a/