
ミックスドモードSパラメータは、USB、HDMI、PCI Express、1000BASE-T1、10GBASE-T1などの高速差動信号伝送路の特性を評価するための非常に重要な指標です。これは、信号の伝わり方や反射だけでなく、ノイズの発生や耐性も評価できるため、現代の電子機器設計に不可欠となっています。
ミックスドモードSパラメータをタッチストーンファイルで扱うには、通常、シングルエンドSパラメータとして測定・保存されたファイルを、シミュレーションソフトウェアや専用のツールを使用してミックスドモードに変換します。
タッチストーンファイル(*.sNp)は、周波数依存の線形ネットワークを記述するための標準化されたフォーマットです。
ミックスドモードSパラメータとタッチストーンファイル
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基本的なタッチストーンファイルのフォーマット:
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Touchstone 1.0 および 2.0 があります。
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通常、ファイルにはシングルエンドのSパラメータが含まれています。例えば、4ポートのデバイスであれば、*.s4pファイルには
個のシングルエンドSパラメータ(S11, S21, S33, S44など)が記述されます。
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ミックスドモードSパラメータへの変換:
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差動伝送線路などの解析で一般的に用いられるミックスドモードSパラメータ(Differential-to-Differential: Common-to-Common: Mode Conversion: )は、シングルエンドのSパラメータ行列を基に、数学的な変換(モード変換)によって導出されます。
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この変換は、シミュレーションソフトウェア(例:ADS、QucsStudioなど)や専用のSパラメータ解析ツールで行われます。
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ミックスドモードでの保存:
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Touchstone 1.0形式では、ミックスドモードSパラメータに関する情報が標準でカプセル化されていないため、ミックスドモードの結果を直接Touchstoneファイルとして保存することは非推奨とされることが多いです。
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しかし、一部のソフトウェアでは、ヘッダーコメントにミックスドモードで保存されていることを示す情報を付加して出力できます。
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活用の流れ(一般的な例)
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測定/抽出: ネットワークアナライザなどでデバイスのシングルエンドSパラメータを測定し、*.sNpファイル(例:4ポートの場合は*.s4p)として保存します。
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インポート: シミュレーションツール(例:回路シミュレータ)にこのタッチストーンファイルを読み込みます。
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モード変換: ツール内の機能を使って、シングルエンドSパラメータをミックスドモードSパラメータに変換します。この際、どのポートを差動ペアとするかを正しく指定する必要があります。
回路シミュレータによっては、ミックスドモードSパラメータ用のExampleファイルが用意されている場合があり、これを参考にタッチストーンファイルを呼び出すことも可能です。
まとめ
ミックスドモードSパラメータは、単に信号がどれだけ減衰するかだけでなく、信号がノイズに変わる量(EMI)や、ノイズが信号に与える影響(イミュニティ)を定量的に評価できる強力な指標です。
CAEツールを駆使してこのパラメータを活用することで、製品を実際に製造する前に、高速信号伝送における信号品質やEMCの問題をPC上で詳細に分析・解決することができ、開発の手戻りを減らし、信頼性の高い製品設計を実現します。
この動画では、ミックスドモードSパラメータの基本的な考え方について分かりやすく解説されています。
EMC村の民「ミックスドモードSパラメータとは」より
ミックスドモードSパラメータは、平衡回路や差動伝送回路の特性を表すときに使用されるパラメータで、例えばUSB、HDMIや10GBASE-T1といった高速の差動通信規格の評価に使用されています。 はじめにSパラメータについて簡単におさらいした後に、ミックスドモードSパラメータの概要とその評価方法について解説します。
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EMC村の民「平衡回路と不平衡回路」より
平衡回路と不平衡回路の「特徴」と「用途」について解説します。
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EMC村の民「ポートネットワークアナライザの活用方法」より
SIGLENT製のSNA5004Aをもとに 4ポートネットワークアナライザ(VNA)の活用方法を解説しています。
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