SIGLENT(シグレント) ベクトル・ネットワーク・アナライザ SNA5000Aシリーズ

シングルソースVNAで測定したシングルエンドSパラメータをミックスドモードSパラメータに変換する「重ね合わせの原理(Superposition Technique)」が成り立つための主要な前提条件は、『デバイスが線形』であることです。

この手法は、基本的に基本的に線形なパッシブデバイス(伝送線路、コネクタ、ビアなど)の特性評価のために使用されています。

 

**重ね合わせの原理(Superposition Technique)**とは、線形なデバイスにおいて、個々のポートに単独で加えた信号に対する応答(シングルエンドSパラメータ)を組み合わせて、差動(Differential)や共通(Common)といった複合的なモードの応答(ミックスドモードSパラメータ)を数学的に導出する手法です。

 

変換が成り立つための主な前提条件

 

 

1. デバイスの線形性(Linearity)

 

ミックスドモードへの変換は、複数のシングルエンド測定(個々のポート励振)の結果を数学的に組み合わせる「重ね合わせの原理」に基づいています。

  • 定義: 測定対象デバイス(DUT)が「線形」であり、「時不変」であること。

  • 意味: 励振信号の振幅や位相が変わっても、その応答が一定の比率で変化し、複数の入力が同時に加えられたときの応答が、個々の入力に対する応答の単純な合計として表現できることです。

  • 影響: トランジスタやアンプなどの非線形アクティブデバイスを大信号で測定する場合、この線形性の前提が崩れるため、変換によって得られたミックスドモードSパラメータは不正確になります。この場合は、デュアルソースVNAによる「True Balanced Measurement(真のバランス測定)」が必要です。

**「時不変」:デバイスの性質が時間とともに変化するのが、時変。変化しないのが時不変。

2. ポートの整合状態(Ideal Termination)

 

シングルエンドのSパラメータ測定は、励振していないポートが完全な整合終端(通常50Ω )されていることを前提としています。

  • 定義: VNAの測定ポート(テストポート)が、リファレンスインピーダンス(通常 50Ω)に完全に終端されていること。

  • 意味: 差動ペアを構成する2つの導体間、および各導体と基準面(グラウンド)間のインピーダンスが、VNAのポートインピーダンスに正確に一致している必要があります。

  • 影響: 終端が不完全な場合、変換式には終端インピーダンスの不一致による誤差が入り込みます。特に、シングルエンド測定を基に差動挿入損失(Sdd21)を計算する際のモードインピーダンス(奇数/偶数モードインピーダンス)がリファレンスインピーダンスと大きく異なる場合、変換の精度が低下します。

 

3. 測定データの完全性(Complete Data Set)

 

ミックスドモードSパラメータを導出するには、対応する全てのシングルエンドSパラメータが必要です。

  • 定義:ポートの差動デバイス(通常 )の場合、変換には 個のシングルエンドSパラメータ (S11, S21, …,Snn) の全てが測定されていることが必要です。(たとえばs4pの場合、16個の測定トレースが必要です。)

  • 意味:VNAは、各ポートを順次励振し、全てのポートでの反射波と透過波を測定する必要があります。これは、通常、完全なNポート校正(Full -N-Port Calibration)を行うことで確保されます。

  • 影響:測定データが不足している場合や、校正が不完全な場合は、正確な変換を行うことはできません。

これらの前提条件の中で、特に線形性が最も重要な境界線となります。シングルエンドSパラメータの変換は、線形受動デバイスの動作を理解するための有効でコスト効率の良い手法でした。

現在では低価格の4ポートVNA、オプションなしで「デュアルソースVNA」の機種(SIGLENT製 SNA5000シリーズ、SNA6000シリーズなど)が販売されており、シングルソースVNAによる差動測定のメリットはコスト的にも減少しています。

 

 

この動画では、ミックスドモードSパラメータの基本的な考え方について分かりやすく解説されています。
 
 

出典:engineer-climb.com/mixed-mode-sparameter/

EMC村の民「ミックスドモードSパラメータとは」より

 

ミックスドモードSパラメータは、平衡回路や差動伝送回路の特性を表すときに使用されるパラメータで、例えばUSB、HDMIや10GBASE-T1といった高速の差動通信規格の評価に使用されています。

はじめにSパラメータについて簡単におさらいした後に、ミックスドモードSパラメータの概要とその評価方法について解説します。

出典:engineer-climb.com/balanced/

EMC村の民「平衡回路と不平衡回路」より

 

平衡回路と不平衡回路の「特徴」と「用途」について解説します。

出典:engineer-climb.com/4port-sna5004a/

EMC村の民「ポートネットワークアナライザの活用方法」より

 

SIGLENT製のSNA5004A(標準でデュアルソースVNA)をもとに 4ポートネットワークアナライザ(VNA)の活用方法を解説しています。

出典:engineer-climb.com/cmc/

 

EMC村の民「コモンモードチョークコイルの選び方」より

 

コモンモードチョークコイルの「概要」「特徴」「注意事項」について解説します。

コモンモードチョークコイルは、ディファレンシャルモードに対して低いインピーダンスとなる必要があり、これをミックスドモードSパラメータで表現すると、ディファレンシャルモードの減衰量Sdd21が高い周波数まで小さい必要があることなどと解説。