
レクテナ(Rectenna: Rectifying Antenna、整流アンテナ)の高効率化は、ワイヤレス電力伝送(WPT)システムの実用化において最も重要な課題の一つです。高効率化の鍵は、主に整流回路における損失の低減とRF信号の捕捉および伝送の最適化にあります。
レクテナの高効率化を実現するための主な技術とアプローチは以下の通りです。
1. 整流回路の最適化(DC変換効率の向上)
レクテナの変換効率の大部分は、マイクロ波(RF)を直流(DC)に変換する整流回路(ダイオード)の性能に依存します。
ショットキーダイオードの選定
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低順方向電圧降下(VF):整流ダイオードとして一般的にショットキーダイオードが使用されます。ショットキーダイオードは、他のダイオードに比べて
が低いため、整流時の熱損失(Ploss ∝ VF ⋅I)を大幅に低減できます。
高調波処理技術
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高調波の閉じ込め・再利用: 整流回路の非線形性により、入力周波数の整数倍の高調波が発生します。これらの高調波がアンテナから放射されるとエネルギー損失になります。
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高調波処理回路(フィルタ)を設けて高調波を反射させ、整流回路内に閉じ込めることで、エネルギーをDC変換に再利用し、効率を向上させます。
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この閉じ込め回路を、アンテナと一体で設計する手法も研究されています。
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昇圧技術の応用
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ダイオードの熱損失低減: ダイオードの熱損失は電流の二乗(R⋅I 2)で与えられます。入力マイクロ波電圧を昇圧し、整流回路に流れる電流(I)を減少させることで、熱損失を大きく低減し、効率を高めることができます。
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この昇圧を回路ではなくアンテナ構造自体で行う技術も開発されています。
2. アンテナ・回路の結合最適化
RFエネルギーを最大限に整流回路へ伝えるための設計が重要です。
インピーダンス整合
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整合回路の最適設計: レクテナの入力インピーダンスは、入力電力レベルによって変動します。アンテナの出力インピーダンスと整流回路の入力インピーダンスを広範囲の入力電力レベルで一致させる(インピーダンス整合)ためのマッチング回路を適切に設計することで、RFエネルギーの反射を最小限に抑え、伝達効率を最大化します。
部品点数の削減と一体化
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アンテナと回路の一体化: コネクタや長い伝送線路はエネルギー損失の原因となります。受電アンテナと整流ダイオードを直接接続・一体化することで、中間回路の損失を抑制し、高効率化と小型化を実現します。
レクテナアレイの最適制御
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最適負荷の提供: 多数のレクテナ素子を並べたレクテナアレイの場合、システム全体で最大の効率を得るために、レクテナ制御装置が各レクテナ素子に対して最適な負荷を自動で提供(定インピーダンス制御や定電圧制御など)することで、システム全体の高効率化を図ります。
3. その他のアプローチ
マルチバンド設計
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複数周波数対応: 複数の周波数帯域の電波を捕捉し、DC変換できるようにマルチバンド設計を導入することで、捕捉できるRFエネルギーの総量を増やし、結果的に変換効率の向上につながります。
半導体の進化
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高性能ダイオードの開発: 市販品では入手が難しい、低損失で高周波応答性に優れた整流用半導体を独自に開発し、レクテナに適用することで、究極的な変換効率の実現を目指す研究も進められています。
「無線電力伝送用受電レクテナ」 金沢工業大学 工学部 電気電子工学科 教授 伊東 健治氏の動画では、半導体をアンテナに直接接続することで高効率化を目指す研究開発について説明されています。
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金沢工業大学での無線電力伝送への取り組み
2.エネルギーハーベスティング用受電レクテナ |
T&MコーポレーションではNEXTEM社と協調してSIGLENT社/Ceyear社の電子計測器(スペアナ、VSG、VNA)によるWPT関連機器の評価に必要なシステムの提案を行っております。お気軽にお問い合わせフォームよりご相談くださいませ。http://tm-co.co.jp/contact/